「おーい磯野、野球しようぜ!」
2007-12-02
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:16:14.59 ID:RJji9MBO0
そう言って最後にあいつが家にやってきたのはいつだっただろうか。
トーストの匂いがする。窓から太陽の光が射し込み、カツオは目を覚ました。
気持ちのいい朝だった。季節は春、四月の下旬だ。
磯野カツオは今年の春から高校生になった。
小学生のころから成績があまりよくなかったカツオが
ハイレベルの進学校に入れたことは快挙だった。
合格を知らせたときの波平の喜びようをカツオは今も覚えている。
カツオは布団から這い出て、コトコトと音のするキッチンに顔を出した。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:17:55.08 ID:RJji9MBO0
キッチンでは珍妙な髪型の女性が目玉焼きを作っている。
「あら、今日は珍しく早いじゃないカツオ」
フグ田サザエ、歳の離れたカツオの姉だ。
お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけたりするくらいパワフルな女性だ。
「僕だって早起きすることぐらいあるよ。失礼だな姉さんは」
「ゴメンゴメン。もうすぐご飯できるから顔洗って来なさい」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:19:54.63 ID:RJji9MBO0
洗面所には先客がいた。
「おはよう、マスオ義兄さん」
「あ、カツオ君か。おはよう。もう少し待ってもらえるかい?」
髭剃りを中断して挨拶を返すマスオ。
その律儀な性格。さすが姉さんの夫が勤まるだけのことはあるとカツオに思わせた。
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:22:21.42 ID:RJji9MBO0
間が持たないなと思ったカツオはマスオに話しかける。
「マスオ義兄さん、父さんの姿が見えないけどまだ寝てるの?」
「お義父さんは朝一で会議があるらしくてね。もう出かけちゃったんだ」
「そうなんだ、父さんもまだまだ元気だな」
「お義父さんの心配をするなんてカツオくんもなかなか親孝行になったじゃないか」
髭剃りを終えたマスオは笑いながら洗面所を後にした。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:24:21.11 ID:RJji9MBO0
身支度を整えたカツオは居間で家族と朝食をとる。
波平は出かけ、タラヲはまだ寝ているため五人での朝食だ。
「お母さん、私今日はちょっと遅くなるかも」
「おや、何か用事でもあるのかい?」
「ちょっと友達と野球部の練習試合の応援しようと思って」
「暗くならないうちに帰ってきなさいよ」
「はーい」
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:26:34.08 ID:RJji9MBO0
カツオはトーストはかじりながら、フネとワカメのいつも通りの会話を聞いていた。
磯野フネ、カツオの母でありよく気がつく優しい女性だ。
最近は少し体が弱くなってきているみたいだが、本人はまだまだ元気と言い張っている。
妹のワカメはさっさと朝食を終え、中学校へ出かけようとしていた。
玄関に向かおうとしたワカメはなにか思い出したように振り返った
「そういえばお兄ちゃん、うちの中学って今年も野球部強いんだっけ?」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:28:36.81 ID:RJji9MBO0
―――去年の夏―――
「フォアボール!」
その夏一番の暑さだった。
気温は35度、照りつける太陽の下、ここ山馬グラウンドで中学野球地区大会の決勝戦が行われていた。
制球が定まらなかった。帽子を取った少年はユニフォームで汗をぬぐい、マウンドの上でふうっと息をつく。
9回裏2−1 1アウトランナー2塁1塁 少年のチームは1点リードのまま最終回を迎えていた。
「タイム!」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:31:34.21 ID:RJji9MBO0
メガネをかけたキャッチャーの少年がマウンドに駆け寄ってくる。
「球はまだ走ってる。悪くないぞ!あとひとふんばりだ磯野!」
カツオは腕を組んでおどけて答える。
「まあ、負けても命までとられるわけじゃないからな。いつも通りやるさ」
「……そうだな。やっぱり磯野は落ち着いてるな。じゃあ、いつも通り頼むよ」
そう言って中島はポジションにもどっていった
カツオはもう一度ユニフォームで汗をぬぐう。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:35:11.29 ID:RJji9MBO0
カツオと中島は小学校からの親友で、
昔から時間があるたびに野球ばかりして遊んでいた。
二人は中学校に入ると当然のように野球部に入った。
カツオはそのしなやかなフォームからくり出されるノビのある直球を、
中島は強肩と意外性のあるリードを監督に評価されてバッテリーを組まされた。
親友同士ということもあり二人の相性は抜群で様々な試合で活躍していった。
そして三年最後の夏、ついに地区大会決勝までたどりついたのだった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:38:56.72 ID:RJji9MBO0
「ストライク!バッターアウト!!」
矢のようなストレートが中島のミットに吸い込まれていった。
「ナイスボール!」
中島がうれしそうにボールを返す。
お前こそいつも通り落ち着いているじゃないか、とカツオは苦笑した。
相手チームの3番を三振にとり、これで2アウトランナー2塁1塁。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:40:46.68 ID:RJji9MBO0
「あと一人よ〜、磯野く〜ん!」
ベンチでマネージャーの花沢さんが声を張り上げている。
花沢さんは昔からカツオにぞっこんで今もこうしてくっついてきている。
カツオは昔から彼女のことを少し鬱陶しく、しかしそれでいて鬱陶しく感じていた。
あと一人といってもその一人が4番なんだ…。簡単に言ってくれるなよ。
そう思いながらもカツオはテンポよく投げ込んでいく
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:52:37.24 ID:JWhgIJTpO
>>14
>少し鬱陶しく、しかしそれでいて鬱陶しく感じていた。
鬱陶しく感じすぎwwwwww
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:44:43.20 ID:RJji9MBO0
「ストライク、ツー!」
低めのスライダーで空振りを取りカウントは2−2となる。
この暑さでカツオはかなりスタミナを消耗していた。
カツオは目の前がボーっとしてきていたが
強く首を振り、しっかりしろと自分に言い聞かせる。
「あと一球、か」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:46:59.13 ID:RJji9MBO0
中島のサインを確認して首を縦に振る。
インコース高めのストレート。このバッターの苦手コース。
さすがに中島はよく研究している。これで終わりだ。
残りの力を振り絞り、カツオは要求通りの球を放った。
その時、中島は目を疑った。まさか。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:49:53.09 ID:RJji9MBO0
カツオの球をヒットにするのは難しいと判断したバッターは奇策に出た。
バント。打球は勢いなく正面、ピッチャーとキャッチャーの間に転がる。
「俺が取る!」
駆け出したカツオは声を張り上げボールをつかむ。その瞬間カツオの体がふらっとよろめいたのを中島は見た。
「磯野!!」
カツオの投げたボールは―――ファーストの横を大きく逸れていった。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:52:53.87 ID:RJji9MBO0
「―――お兄ちゃんったら、ねえ?」
ワカメは不思議な顔をしている。
「ん?ああ、まあそこそこ強いんじゃないかな」
気のない返事をする。
「ふーん、お兄ちゃんがいたときはすごく強かったのにね。いってきまーす」
ワカメはそんなことを言って、短いスカートをヒラヒラさせ駆け出していった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/01(土) 22:55:22.12 ID:CAr1VMjL0
中学生になってもあのパンチラは不滅ですか?
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:55:53.92 ID:RJji9MBO0
「カツオ、あんたもそろそろ出ないと」
姉さんと母さんは朝食の後片付けを始めていた。
「うん姉さん。今行くよ」
玄関を出ると春にしてはまだ少し肌寒い風が吹いていた。
「野球部…か」
誰にも聞こえないような声でカツオは呟いた。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:59:32.24 ID:RJji9MBO0
カツオの通う岩志高校までは徒歩で約三十分。
いつもの道をカツオは一人で歩いていた。
「磯野くーん、おはよー!」
大きな声でカツオの名をよぶのは花沢さんだった。
静かに登校したかったカツオにとっては少し鬱陶しい。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:03:43.18 ID:RJji9MBO0
彼女もカツオと同じく岩志高校に進学していた。
まったく、どこまで僕についてくる気なんだろう。
カツオはやれやれと首を振った。
「磯野君、聞いたわよ。こないだの学力テストで学年三位だったらしいじゃない。
昔は全然勉強できなかったのにね磯野君。どうしちゃったのよ?」
ガハハハと笑いながら花沢さんが話しかける。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:07:53.97 ID:RJji9MBO0
「別に。他にやることがなかっただけだよ」
前を向いたままつまらなそうにカツオは答える。
「あ、ごめんね…磯野君」
花沢さんは申し訳なさそうな顔をしている。
「何が?」
それだけ言うとカツオは歩くスピードをあげて一人で学校へと歩いていった。
そう、他にやることがなかっただけさ…。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:08:58.17 ID:QyPpTpgN0
でも現実でもカツオみたいな子が中学から伸びるよね。
真面目だと精神的に潰される。
遊びでストレス発散できる奴は上がっていく
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:12:13.07 ID:RJji9MBO0
中島がカツオと同じ高校に入学したのは予想外だった。
”あの試合”以来二人は話すこともなく疎遠になってしまっていた。
決勝のミスのことでチームのみんなはもちろん、中島もカツオを責めなかった。
しかしそれからというもの中島は急によそよそしくなった。
二人でやっていたピッチング練習にも来なくなった。
初めはそのうち来るだろうと思い、カツオは高校野球に向け一人で硬球を使って投げ込んでいた。
二人は同じ高校に進学して、甲子園を目指そうと前から言っていたからだ。
しかし一週間たっても中島は来ない。おかしいと思ったカツオは中島のクラスに行って事情を聞くことにした。
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:16:35.00 ID:RJji9MBO0
「どうしたんだよ中島。最近ぜんぜんピッチング練習に来ないじゃないか」
少し強めの口調でそう言ったカツオに対して中島は何か後ろめたそうな顔をしている。
「あ、磯野…」
「もしかして怪我でもしたのか?」
「いや、怪我はしてない…」
「わかったぞ、彼女でもできたんだろ?」
「いや…」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:18:28.96 ID:RJji9MBO0
中島は妙に歯切れが悪かった。
「じゃあ、いったいどうしたんだよ。俺のミスのこと怒ってるのか?」
「違う!そんなんじゃないんだ…。ただ…」
「ただ?」
「…」
中島は何も言わない。
「おいおい、本当にどうしたんだよ。
二人で野球推薦とって、高校で甲子園目指すんじゃなかったのかよ!」
「…」
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:22:28.02 ID:RJji9MBO0
中島は黙ったまま。こいつ、何考えてんだ。
カツオは中島の肩をつかみ、声を荒げた。
「やっぱりあんな凡ミスするような奴とは組めないってのか!
何とか言えよ、中島!」
「ちょっと磯野君、落ち着いてよ!」
中島と同じクラスの花沢さんがカツオの制服を引っ張る。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:27:53.74 ID:RJji9MBO0
そのとき、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
いつの間にか、教室にはカツオ達以外の生徒はいなくなっていた。
中島のクラスは次の時間移動教室だったらしい。
「…じゃあ、行くから」
中島はそんな言葉を残しカツオの前から去っていった。
「磯野君…」
花沢さんは心配そうにカツオの顔を見つめている。鬱陶しい。
何も言わなかった中島の背中を見つめながらカツオはギュっと唇を噛み締めた。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:32:54.77 ID:RJji9MBO0
その日以来カツオは野球の練習をしなくなった。
自分に何も言わずに野球をやめた中島のことが信じられなかった。
それからというもの二人の関係はぎこちなくなり、今までのように話せなくなってしまった。
そして野球を辞めたカツオは勉強に精を出し始める。
元から頭の回転は速かったカツオは、ぐんぐんと成績を伸ばした。
そしてこの春県内トップクラスの進学校である岩志高校に合格した。
疎遠になった中島の志望校など知るはずもなかったカツオは入学式で中島をみかけたときひどく驚いたものだ。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:37:22.50 ID:RJji9MBO0
花沢さんと出会った事以外はこれといったこともなく一日をを終え、
学校から帰宅したカツオは家族で晩御飯を食べていた。
TVではプロ野球中継が流れている。
「さあロッテが1点リードのまま9回表、ロッテはマウンド上に小林雅英を送り込んできました!」
「それでね、練習試合は一点差でうちの学校が負けちゃったのー。惜しかったんだから!」
今日のできごとを波平とフネに話すワカメ。もはや晩御飯時の定番だ。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:41:53.46 ID:RJji9MBO0
ワカメは話し続ける。
「野球部の人ってやっぱり巨人ファン多かったわ。お父さんも巨人ファンよね?」
「左様」
「あーっと、1アウトを取ったところまでは良かったんですが、
そこからヒット、そして二者連続フォアボールでなんと満塁です!!!!」
「そういえばお兄ちゃん、中島さんが試合見にきてたわよ」
「え?」
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:47:10.43 ID:RJji9MBO0
動揺が走る。カツオは箸でつまんだ大根の煮物を落としそうになった。
「一生懸命後輩の応援してたわよ。中島さん、高校でも野球部入ったんですって。
お兄ちゃんも入れば良かったのにね。」
「あ…ああ、そうだな。ご、ごちそうさま」
「あら、もういいの?」
サザエが驚いた顔でカツオを見た。
「うん、部屋で宿題してくるよ」
「ひっかけた!4、6、3 ダブルプレー!!ゲームセット!
7−6 乱打戦を制したのはロッテ!!自分で作ったピンチを自分で切り抜けました小林雅英!!!」
カツオは足早に居間を出た。
TVの野球中継がひどく不快に聞こえた。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:48:24.99 ID:RJji9MBO0
部屋に戻ったカツオは混乱していた。
どういうことだよ中島…。
あの時、何も言わずに野球をやめたのはお前のほうだろ?
それを今更になって、なんだっていうんだ。
机を叩く。
そうだ、僕にはもう関係ない。
何をこんなに動揺しているんだ僕は。
もう、終わったことなんだ…。
結局その日の宿題はまったくはかどらないままだった。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:51:30.52 ID:RJji9MBO0
中島の部屋のドアが開く。
「博、今日はずいぶん帰りが遅かったな」
中島の祖父権造はひどく不機嫌そうだった。
「後輩の練習試合の応援に行ってたんだよ」
遠慮がちに中島は口を開く。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:53:09.84 ID:RJji9MBO0
「フン。お前は中島家の跡取りだぞ、いつまでも野球なんぞにうつつをぬかしおって。
ゆくゆくはワシの会社を継いでいかねばならぬ身。野球とは早々に縁を切るべきなんだ。
中学の時でやっと終わったと思うたのに…。高校に入ってまたわがままを言いだしおって。
もう一度言っておくがな、あと一度でも試合に負けたら野球はそれまで。勉強に専念してもらうからな」
「わかってるよ…おじいちゃん」
どこか説明口調の権造はフンと鼻を鳴らして部屋を出ていった。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:54:05.61 ID:YSvB7vg30
権造うぜぇwwwwww
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:55:53.78 ID:RJji9MBO0
中島の両親は十年前に事故で他界していた。
残された兄弟の面倒を今までみてくれていたのは父方の祖父権造だった。
権造は大会社の社長をしている。
跡継ぎの父さんが不運な事故で亡くなってからは中島の兄を跡継ぎとして育てていた。
権造は時に厳しく兄に当たった。跡継ぎとしての兄に対する期待の表れだったのだろう。
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:00:15.28 ID:RXgd8Ii60
しかし、そんな生活に嫌気がさしたのだろうか。
二年前、中島の兄は何も言わずに突然行方をくらました。
やはり家に不満があったのかもしれない。
いなくなった今、兄の真意を確かめる術はどこにもなかった
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:04:22.13 ID:RXgd8Ii60
そして残った弟の方に権造の期待が集中するのは当然のことだった。
しかし当時中学生だった中島は熱心に野球に打ち込んでいた。
権造には野球は中学で終わりにしろと言われていたが、
”地区大会で優勝したら、これからも野球を続けさせて欲しい”
そう権造に進言したのは中島だった。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:05:09.19 ID:RXgd8Ii60
キャプテンだった中島は自分のチームの実力を十分に把握していた。
このチームなら問題なく優勝できると。
そしてなによりカツオの投げる球を誰よりも信じていた。
しかし結果は…。
優勝できなかった中島は野球をやめさせられて、勉学に励むことになった。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:08:56.88 ID:RXgd8Ii60
キャッチャーミットを磨きながら物思いにふける。
祖父には感謝していた。両親のいなくなった僕をここまで育ててくれたんだから。
それでなくても息子夫婦の突然の死、
孫の失踪で祖父の精神状態はボロボロだということに僕は気づいていた。
これ以上祖父を傷つけるのは避けなければならなかった。
それでも野球を捨てたくなかった。どうしても野球を続けたかった。
だから条件付きでもう一度だけ野球をやらせてもらっている。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:10:05.36 ID:WG2xBzTMO
中島…
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:15:41.36 ID:RXgd8Ii60
磯野には本当のことを言っていなかった。
言えば自分のせいで僕が野球をやめることになったと自分を責めただろうから。
でもあいつはきっと僕がいなくても野球を続けるに違いない。
そう思っていた。だが磯野は野球を捨ててしまった。
僕の態度にひどくショックを受けたのかもしれない。
磯野には本当に悪いことをしたな。
あれから、なんとなく磯野とは気まずくなってしまった。
何か気の利いた言い訳でも考えておけばこんなことにはならなかったかもなと今も後悔している。
ごめんな、磯野。
窓の外を見ると半分欠けた月が夜空にうかんでいた。
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:19:15.79 ID:RXgd8Ii60
次の日、学校が終わり帰途についていたカツオの前に急に人影が現れた。
花沢さんだった。カツオは大きくため息をつく。
「ち、ちょっと磯野君!た、大変…よ!」
「どうしたんだよ花沢さん?そんなに息を切らし――」
「いいから来なさい!」
花沢さんはグイっとカツオの腕を引っ張り走り出した。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:23:59.76 ID:RXgd8Ii60
「ちょっと花沢さん!」
引っ張られること約五分、
カツオが無理やりつれてこられたのは学校の近くにある古びたバッティングセンターだった。
ところどころ緑色のネットが破れていて、危なっかしい。
「いい加減この手を離してくれないか?」
うんざりしたようにカツオは上を向く。
そんなカツオをお構いなしに花沢さんは物陰に隠れた。
88 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:30:19.01 ID:RXgd8Ii60
「ここがどうしたっていうんだよ」
「見てよほら」
バッティングセンターの片隅に目を向ける。
そこには岩志高校の生徒と知らない学校の制服を着た三人の生徒がいた。
「オイオイ!!どーした、ひょろ男クン!」
「ヒャハハ!そんなへっぴり腰でボールが打てるかよ!!」
岩志高校の生徒は精一杯バットを振っているようだがちっともボールに当たっていなかった。
「よし、これでヒットの本数は…43対3だな。さっさと4千円だせや!」
「ひぃ…勘弁してください」
やりとりからするとヒットの本数で勝負をしているらしい。
まあ、お互い合意の勝負ではなさそうだが…。
90 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:34:01.90 ID:RXgd8Ii60
「あいつら飯田高校の野球部よ。
あそこは野球強いけど、ガラが悪いって評判だわ。
やられてるのはうちの一年の伊勢くんね」
聞いてもいないのに花沢さんはつらつらと説明してくる。
「それで?僕にどうしろと?」
「決まってんじゃない、磯野君の剛速球であいつらをやっつけてよ!」
昨日の朝は野球の話題を連想させて気まずそうにしていたくせに、一晩たったらこの有様だ。
カツオは呆れ返っている。
92 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:38:07.96 ID:RXgd8Ii60
まだ全部完成してないんでもうちょっとしたら一回切ります
再開は明日の昼ごろかと…それまでに完成させます
とりあえずもうちょっと頑張る
「僕が野球をやめたのは知ってるだろ?」
「まあまあ人助けだと思って、ね?」
正義感が異常に強い花沢さんがこうなってしまっては説得のしようもない。
やれやれといったふうにカツオは肩をすくめた。
「好きにしたらいいさ」
「そうこなくっちゃ!」
96 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:42:22.70 ID:RXgd8Ii60
花沢さんはまさに水を得た魚だ。
物陰から飛び出した花沢さんは不良たちの前に躍り出た。
「待ちなさいあんた達!そのお金を彼に返しなさい!」
「なんだこの女?」
金髪の男が怪訝な目で花沢さんを見る。
「勘違いすんなよネーちゃん。
俺達はこいつと真剣勝負して勝ったから金をもらったんだよ!なあ!?」
三人の中で一番背の高い男がバットを振りかざし伊勢君に怒鳴る。
「…いえ、その…はい」
弱弱しく呟く伊勢君。カツオ達以外周りに誰も人はいない。
98 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:46:43.84 ID:RXgd8Ii60
「だったらこっちが勝負に勝ったらお金を返してくれるってことよね?」
勝ち誇ったように腕を組む花沢さん。
「あ?」
「ここにいる彼と一打席勝負してもらうわ!」
カツオは無理やり前に押し出された。
三人組はジロジロとカツオを見て、なにやら話し合っている。
一分かそこら経っただろうか。
「よーしいいだろう、ついてこい」
そう言うと三人組はだらだらと歩いていった。
面倒なことに巻き込まれた。あらためてカツオはそう思った。
不良と関わることですらかなり面倒なのに、そのうえ野球勝負?
言いだしっぺの花沢さんは鼻を膨らませてやる気満々だ。鬱陶しい。
伊勢君の方を見てみる。震えてそれどころじゃなさそうだ。
99 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:48:13.47 ID:RXgd8Ii60
「ここでいいだろ」
デブの男が空き地を指差した。
その空き地はかつて中島とピッチング練習をしていた空き地だった。
皮肉なものだ。カツオは懐かしげに空き地の土管を眺めた。
デブは土管に噛んでいたガムを吐き捨て、また新しいガムを噛み始めた。
「俺らが負けたらこいつに金を返す。で、俺らが勝ったらいくらくれるんだよ?」
金髪は明らかになめた口調でボールを弄んでいる。
強い風が、空き地を吹き抜けた。
100 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:52:07.78 ID:RXgd8Ii60
なぜか、無性に腹が立った。
こいつらがこの空き地にいることが気に食わなかった。
消えろ。消えろ。消えろ。
気がついたらとんでもないことを口走っていた。
「バットにボールが当たったら一万円あげるよ」
「磯野君!?」
「ああ!?ナメてんのか!?」
金髪がこちらを睨む。
「いいじゃねえか、楽に金が手に入るんだからよ」
ノッポとデブはへらへら笑っている。
101 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:58:00.54 ID:RXgd8Ii60
「ちょっと磯野君!大丈夫なの!?」
駆け寄ってくる花沢さん。
言いだしっぺは彼女なのに大層慌てている。
「黙ってってくれないか」
うざったそうに花沢さんを振り払い、カツオは三人組から離れた場所に歩いていく。
どうやら金髪の男が勝負するようだ。
「それじゃあ、始めようか」
カツオはゆっくりと振りかぶる。
空を見上げると、いまにも雨が降りそうな真っ黒な雲が広がっていた。
もう誰も見てないかもしれないけど
ここで切ります皆さん乙でした
再開は明日(っていうかもう今日ですが)の昼ごろです
スレタイは一緒にしときます
このスレが残ってればここ使います。
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:58:42.61 ID:KocDNo3s0
>>101
激しく乙!
楽しみにしてるよ
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:59:46.67 ID:O7aRSp720
ぐああああああ
生殺しいいいいいい
---------------------------------------------------------------
147 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 10:02:05.31 ID:RXgd8Ii60
スレが残ってる!
保守の皆さん本当に乙
ほとんど完成したので
12時くらいから書き始めようと思います
161 :1:2007/12/02(日) 11:04:00.04 ID:B5LXxd2a0
再開します
不良達がボールを投げた。
いい球ではあった。「第一球空振り!」
不良達がわらっている。今のカツオの手には当時の感覚はなかった。
「第二球空振り!」
不良達が声高々に言う。
そういえば、中島との野球もこんな感じだったっけな。
「第二球空振り!おい、磯野。それじゃあ来週の試合には間にあわないよ」
あのときの中島の声が突然聞こえた気がした。
不良達が3球目を投げる。カツオがそれに対して大きく振りかぶる。
「空振り三振!!!!」
結果は残酷だった。不良達にやすやすと負けるほどカツオの腕は落ちていたのだ。
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:08:55.43 ID:UMqXV5dm0
再開ktkr
また読ませてもらうぜ
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:12:26.77 ID:TO0Ga/8L0
なぜカツオがバッター?
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:14:18.94 ID:aUq9AJnzO
違うだろwww
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:15:34.25 ID:UMqXV5dm0
うはwwwよく見たらIDちげーよ/(^o^)\
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:21:03.85 ID:5heDgCdzO
カツオちゃんの身を真剣に案じてしまったではないか!
あー、ハラハラした…
168 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:19:24.78 ID:RXgd8Ii60
あれ俺が二人いるwwww
早めに再開
曇り空の下、岩志高校のグラウンドでは十数人の部員たちが守備練習をしていた。
「よーし集合!」
監督の声が響く。部員たちは監督の前へと急いで集合した。
「えー、急な話だが今週の土曜日に飯田高校と練習試合をすることになった」
部員たちのあいだにざわざわとした声が広がる。
「飯田ってあの強豪の?」
「たしか去年は県でベスト4に入ったよな…」
「おい、静かにしろ!まあ、胸を借りるつもりでやれ。練習試合だからな」
監督が話し終えるとポツポツと雨が降り始める。
「今日はこれで解散!土曜日は十時に試合開始だからな、遅れるなよ!」
練習は雨のせいで早めに終わることになったようだった。
170 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:21:47.34 ID:RXgd8Ii60
「冗談じゃないぞ」
雨の降る帰り道で中島は一人つぶやく。
まだ四月。チームはしっかりとまとまっていない。
そんな中で、飯田高校と練習試合?
だからこその練習試合か…。チームには良い経験になるだろう。
しかし今はピッチャーが一人怪我をしていて、まともに投げられるのは一人。
明らかに戦力に差がありすぎる。勝つのは厳しい。
174 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:24:07.76 ID:RXgd8Ii60
部員が少ないこともあり
一年生ながら中島はキャッチャーとしてレギュラーに入っていた。
真っ暗な空を見上げる。
負けたらそこで終わりなんだ。
おじいちゃんは練習試合でも例の約束を持ち出してくるだろう。
ちくしょう。勝てる気がしない。でも…負けるわけにはいかない。
175 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:26:21.70 ID:RXgd8Ii60
磯野…。
いや、磯野はもういないんだ。
時々、思うことがあった。
僕は磯野の投げる球を誰よりも信頼していた。
でも僕は磯野を信頼していたのではなく、
いつの間にか野球を続けるために利用していたのでは?
176 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:27:49.85 ID:RXgd8Ii60
どちらにせよもう磯野に頼ることはできない。
あいつに僕の事情を押し付けるのは卑怯だから。
「そう、決めたんだ」
先ほどから急に降り出した雨は、ますます激しさを増していった。
177 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:29:18.54 ID:RXgd8Ii60
たった三球投げただけ。
それなのに、頭がくらくらした。
180 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:31:31.25 ID:RXgd8Ii60
激しい雨が降る中でカツオは空き地に背を向けた。
金髪はバットを持ったまま立ち尽くしている。
その後ろでノッポとデブは呆然としている。
三球、すべて直球だった。
しかしバットはボールにかすりもしなかった。
やがて三人組は逃げるように空き地を出て行った。
「てめえ、おぼえてろよ!」
金髪が去り際に何か言っているように聞こえたがカツオの頭には入ってこない。
182 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:34:09.02 ID:RXgd8Ii60
カツオはゆっくりと空き地を去ろうとする。
「待って!磯野くん!!」
花沢さんが必死にカツオを追いかけて走る。
「ごめんなさい、磯野くん…わたし――」
「鬱陶しいんだよ…」
「え…!?」
花沢さんは今にも泣きそうな顔をしてその場に突っ立っている。
カツオはそれ以上何も言わず、重い足取りで雨の中を歩いていった。
185 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:37:02.24 ID:RXgd8Ii60
なんだっていうんだ!
ただボールを投げるだけじゃないか!
それがどうしてこんなにも苦しいんだ?
どうしてこんなに頭が痛いんだ?
ボクハナニヲコワガッテイルンダ?
どこからか声がする。
「怖いんだろう?磯野カツオ」
黙れ。
「またミスをして見捨てられるのが怖いんだろう?」
黙れ。
「あんな肝心なところで暴投した奴は愛想を尽かされて当然さ!」
「黙れ!!!」
叫んだ。
周りにいた人が何事かとこちらを見る。
ダメだ。その場に跪く。
早く帰ってゆっくり風呂にでも入らなきゃ…。
187 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:39:26.36 ID:RXgd8Ii60
家に帰ったカツオはすぐさま風呂に向かう。
体は鉛のように重い。
脱衣所に誰かいるのに気が付いた。
半裸の波平がそこにいた。
「父さん。どうしたのこんな早く?」
「おお、カツオ。今日は会社が早く終わってな、久しぶりに一緒に入るか?」
波平が一緒に風呂に入るのは何か話したいことがあるからだと、カツオは分かっていた。
「いいよ」
口数少なくそう答えた。
191 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:43:52.57 ID:RXgd8Ii60
「父さん、背中流そうか?」
「おお、すまんな」
波平はこちらに背中を向けるといつもの調子で話し始めた。
「お前が岩志高校に合格したことがワシは本当にうれしかった」
波平は上機嫌で語る。
「またその話?」
そう言うと波平の様子が急に変わった。
「カツオ、本当に野球をやめてよかったのか?」
話す内容はいつものものではないようだ。
194 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:45:59.57 ID:RXgd8Ii60
カツオは何も答えられない。
「カツオ、中島君ともまだあのままなのか?」
「え!?父さん?」
「みんな気づいとるぞ。母さんもサザエもマスオくんも心配しとる。
ワカメは全然気づいてないみたいだが」
みんなに心配をかけている、カツオはなんとなく分かっていた。
サザエたちは何気に中島や野球の話をするのは避けていたから。
ワカメは気にもせずに話していたけど。
196 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:47:43.17 ID:RXgd8Ii60
「お前ももう高校生だ。ワシらがああしろ、こうしろとは言わん。
まあ、ちょっとしたきっかけで友達と気まずくなることはよくある。
ワシも昔そんなことがあった。」
「父さんも?」
「それじゃあ話すとするか。あれはワシが高校二年の頃だった。
そう、ワシの髪がまだふさふさで、秋の紅葉がうっすらと赤く染まる季節…」
それにしてもこの禿、ノリノリである。
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:49:26.55 ID:ehKUjZK6O
>>196左様wwwwww
200 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:53:39.51 ID:RXgd8Ii60
>>199
一応もう全部書いてあるんだ
いまはそれを添削しながら貼ってるだけ
縁側で夜風に当たる。
父さんの話を聞いているうちにのぼせてしまったようだ。
つまるところ友達を大切にしろってことらしいが、そんなこと百も承知だった。
ただ、今更どうしろっていうんだよ。
201 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:54:53.65 ID:RXgd8Ii60
週の終わり金曜日、授業が終わるとカツオはさっさと荷物をまとめ教室を後にした。
廊下はこれから部活の生徒や、友達と談笑する生徒でにぎわっていた。
カツオはそれらを気にもとめずに廊下を歩いていると、隣のクラスの女生徒の会話が耳に入ってきた。
「聞いた?明日野球部練習試合するんだって」
「へえー、どこの学校とやるのかな?」
「飯田高校とだって」
202 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:55:56.73 ID:RXgd8Ii60
それ以上は聞く気にならなかった。
飯田高校。この間の三人組の学校。たしか去年はベスト4だったか。
カツオは窓の外に見える野球部の練習に目を移した。
この学校の野球部では勝つのは難しい。カツオの率直な感想だった。
見たところ打線は中島もいるからそこそこのものだろう。
守備も高校野球のレベルとしては標準的だ。
問題はピッチャー。
205 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:57:33.16 ID:RXgd8Ii60
中島がリードしたところであのピッチャーだけでは苦しいだろう。
悪いピッチャーではない。
ただベスト4のチームを相手に最後まで持つかどうか。
せめてもうひとりピッチャーがいれば何とかなるかもしれないな。
そこまで考えてカツオはハッとした。
208 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:01:00.28 ID:RXgd8Ii60
なんで僕はこんなことを考えてるんだ。
最近の僕はどうかしている。
花沢さんの人助けに付き合ったり、こんなところで野球部の戦力分析をしたり…。
未練でもあるのか僕は…。
「まあ…精々頑張れよ、中島」
グラウンドで一際よく動いている人影にむかってカツオはそんな言葉を投げかけた。
「帰るか」
最後にもう一度だけグラウンドに目をむけ、カツオはすっかり人の少なくなった廊下を一人歩いていった。
210 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:01:54.09 ID:RXgd8Ii60
午後十時、すっかり暗くなった道を一人の少女が歩いている。
少女は小さくため息をつく。
花沢花子は落ち込んでいた。
軽率な行動で磯野君の古傷をえぐるような真似をしてしまった。
もちろん、伊勢君を助けるのが第一の目的だった。
でも、もしかしたら磯野君がもう一度野球を始めてくれるきっかけになるかもって。
それが見事に逆効果。あーあ、私ってドジな女。もう一度大きなため息をつく。
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:03:40.67 ID:VsrB3ZBUO
ヒロインみたいなポジションにいることが鬱陶しいな
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:04:10.74 ID:RB6Wm6g+O
>>211 なwww
213 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:04:13.98 ID:RXgd8Ii60
「――わかっとるな、博」
すぐそばの家から大きな声が聞こえた。
「明日の試合で負けたら―――」
そういえばここは中島くんの家だっけ。
そんなことを思う。
「―――てもらうからな」
チラリと聞こえた会話の内容が妙に引っかかる。
よし。
少女はいつの間にか聞き耳を立ててその場にしゃがみこんでいた。
214 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:06:52.06 ID:RXgd8Ii60
土曜日、練習試合当日は雲ひとつなく良い天気だった。
岩志高校のグラウンドはまわりを桜の木が囲んでいる。
あいにく暖かかった今年は桜が散るのも早く、もう花見とはいかないようだ。
八時にグラウンドに到着した中島は一人ベンチに腰掛けて、相手の戦力を冷静に分析していた。
相手の先発は立ち上がりに不安がある。攻めるなら、序盤。できるだけ点をとる。
うちの打線ならなんとかなるはずだ。
こちらの先発は少々スタミナ不足だ、なるべく球数を節約して最後まで投げきらせなければ。
なんといってもこちらにはピッチャーがたった一人しかいないのだから。
だが去年のベスト4飯田高校の打線。果たしてそう簡単に行くかどうか…。
ふと考えこんでいた頭を上げる。グラウンドにぽつぽつと部員達が集合し始めていた。
215 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:08:33.07 ID:RXgd8Ii60
いい天気だった。部屋の窓を開けグッと背伸びをする。
学校が休みなこともありカツオはいつもより遅くに目を覚ました。
時計を見るともう九時半になろうとしていた。
そういえば今日は野球部の練習試合があるんだったな…。
あくびをしながらカツオは居間へと向かった。
218 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:13:06.40 ID:RXgd8Ii60
午前十時。
「これより、飯田高校 対 岩志高校の練習試合を始めます!」
「しゃーす!!!」
お互いに整列して挨拶をする。
先攻は岩志高だった。守備につく飯田高校の選手は体がいかにも筋肉質で強そうに見える。
中島がベンチに戻ろうとすると、
野球部に似つかわしくない金髪の選手が向かってくる。
220 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:15:46.44 ID:RXgd8Ii60
「おい!おめーらのチームに井戸野ってピッチャーいんだろが!」
イドノ。中島はすかさず脳内の部員リストをチェックする。が、見当たらない。
「いえ、そんな部員いませんけど…」
「ちっ、とぼけてやがんな!確かに先発じゃねえみたいだが…
そのうちあいつを引きずり出してやるぜ!わかったか!」
金髪はブツブツ言いながら自分の守備位置に戻っていく。
中島はまったく訳が分からずにポカンとしていた。
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:17:13.36 ID:Kb3Ze7AQ0
なるほどそうキタか的支援
224 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:17:43.43 ID:RXgd8Ii60
「磯野くん!」
玄関のドアがけたたましい音をたてて開く。
それを平然と出迎えるサザエ。
「あら花沢さん。カツオに用かしら?カツオー、花沢さんよ〜」
サザエが大きな声でカツオの名を呼ぶ。
居留守を使う暇もなかったカツオは渋々玄関に赴く。
「磯野くん、ちょっと話があるんだけど!」
227 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:19:40.57 ID:RXgd8Ii60
カツオは慌てて口を開く。
「今日は――」
「今日はカツオすっごく暇で困ってたのよ〜!
さ、あがってあがって」
カツオの言葉をさえぎり、サザエが勝手に花沢さんをカツオの部屋へと案内する。
「それじゃ、ごゆっくり〜」
サザエが部屋のドアを閉める。
部屋の外からワカメの声が聞こえる。
「お姉ちゃん!お兄ちゃんもなかなかスミに置けないわね!」
酷く誤解しているようだ。勘弁してほしい。
231 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:23:13.76 ID:RXgd8Ii60
「で、話って何?」
観念したカツオは話を聞くことにした。
「まず、この間は本当にごめんなさい磯野君」
いつもより元気のない花沢さんは深々と頭をさげた。
「いいよ、この間は僕もどうかしてたんだ。頭をあげてよ」
「ありがとう。それで話なんだけど…落ち着いて聞いてね磯野くん」
カツオは首を傾げる。
少し元気を取り戻した花沢さんはゆっくりと話し始めた。
233 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:25:11.78 ID:RXgd8Ii60
中島の読みは当たっていた。
初回、先頭打者にフォアボールを出した敵の先発はやはりコントロールが安定していないようだった。
その後もフォアボールを出したピッチャーを3番の中島はここぞとばかりに叩く。
真ん中に甘く入ったカーブを思いきり振り抜いた。
打球はレフトの頭上を越えフェンス直撃。
クッションボールの処理に外野がもたついたこともあり、これが走者一掃の2点タイムリーツーベースとなる。
この回は後続が倒れて2点止まりだったが次のチャンスは3回に訪れた。
234 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:26:43.90 ID:RXgd8Ii60
2アウトからファアボールで塁に出た中島は、すかさず盗塁。
これが成功すると、岩志のキャプテンで唯一の三年である4番真黒がアウトコースの難しい球を右中間に運ぶ。
守りのほうは中島の好リードもあり、
ランナーを出しながらも二年生ピッチャーの白須が飯田打線を懸命に抑えていた。
スコアは3回の裏を終わって3−0。
岩志としてはこれ以上ない好スタートに中島はひとまず肩をなでおろしていた。
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:28:40.37 ID:SwWjlxj6O
>>234
胸をなでおろすじゃね?
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:28:54.95 ID:CzWWycbA0
なで肩なんだよ
239 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:30:21.91 ID:RXgd8Ii60
>>235
素で間違えた
「それ、本当なのかい…?花沢さん…」
花沢さんの話を聞いたカツオはひどくショックを受けていた。
「昨日中島くんの家の前を通りかかったら聞いたのよ。嘘じゃないわ」
「中島の兄さんは外国に留学してるんじゃなかったのか!?
それより、あいつ試合に負けたら野球をやめるって…。
あのときだって優勝できなかったから、野球を続けられなかったんだろ…。僕のせいだったんだ。
僕にはなんにも言ってくれなかった。どうして…」
混乱したカツオは頭を抱えてうずくまる。訳が分からない…。
カツオの目からポロポロと涙がこぼれた。
240 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:32:55.25 ID:RXgd8Ii60
「どうして!?決まってるじゃない!!
そんなふうに磯野君に責任を感じてほしくなかったからよ!
中島くんは磯野君と対等な立場で野球がしたかったのよ。
だから…だから、何も言わなかったんじゃない!」
花沢さんは声を荒げる。
「……」
カツオはうなだれたままだ。
「あなたは野球ができる環境にいたのに野球をやめてしまった。
でも中島くんは野球を続けるために今まで必死に頑張ってきたのよ!
立ってよ磯野君!今日の練習試合は十時から、今から急げばまだ試合途中には間に合うはずよ!」
ひどく鬱陶しかった。でも…
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:37:10.05 ID:ehKUjZK6O
ひどく鬱陶しいwwww
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:35:00.31 ID:EqhTkUqH0
「磯野カツオの鬱陶」
246 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:36:36.27 ID:RXgd8Ii60
全てから逃げるように目を閉じた。
真っ暗な空間。なぜか遥か遠くにキャッチャーミットが見えた。
なんでそんなに遠くで構えてるんだよ。
遠い。遠すぎる。でもギリギリだけど本当にギリギリだけど
今なら投げたボールはまだあそこまで、なんとか届くような気がした。
248 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:37:36.16 ID:RXgd8Ii60
火が点いた。
252 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:40:50.24 ID:RXgd8Ii60
カツオは顔を上げ右手を強く握りしめる。
「花沢さん…君って本当にこっちが感謝したくなるほど鬱陶しい人だね」
「あら、やっと気づいたの磯野君?」
からからと笑う花沢さん。
カツオはTシャツの裾で涙を拭いて、立ち上がり部屋のドアを開ける。
すると突然目の前に何かが飛んできた。
256 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:44:14.91 ID:RXgd8Ii60
カツオは慌ててそれを両手で掴む。
かつて使っていたスポーツバッグだった。
中を見ると、中学時代のグローブとスパイクがしっかりと手入れされて入っている。
「ついにそれを使う日がきたようね、カツオ!!」
目線を上げるとそこにはサザエとマスオが立っていた。
257 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:46:40.00 ID:RXgd8Ii60
「姉さん…これは捨てておいてって言ったのはずなのに…」
「こんな日が来るだろうと思ってこっそりとっておいたのよ!
手入れはマスオさんが欠かさずしてくれてたのよ」
勝ち誇ったようにサザエはカツオの頭を小突く。
「マスオ義兄さん…」
「感謝の言葉はいいから、急いだほうがいいよカツオ君」
二人の目が行って来いとカツオに告げる。
「いくわよ、磯野君!」
花沢さんがそう言った時、カツオはすでに玄関へと走り出していた。
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:47:38.34 ID:uy8fMpaBO
マスオかっこよす
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:48:06.37 ID:zcM0BK6j0
マスオwwwwwwwww
396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:11:45.44 ID:b48zIGkrO
マスオは高校時代、豪速球でならしてた(自称)
これ豆知識な
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:03:40.41 ID:5heDgCdzO
マスオさんの奥ゆかしさが最大限に発揮されとるw
こんな義兄さん欲しいわ
262 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:48:51.97 ID:RXgd8Ii60
もう、あの時のようには戻れないかもしれない。
でももう一度やり直せるなら。
どんなに滑稽でもいい。どんなに惨めでもいい。
走れ。
266 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:50:46.99 ID:RXgd8Ii60
「行きましたね」
フネが湯飲みにお茶を注ぐ。
「ああ」
湯飲みを受け取り、お茶をすする波平。
「かあさん、カツオの奴ここまでくるのに半年以上もかかりおったわ」
「そうですね」
波平はうれしそうに呟く。
「馬鹿者が…」
268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:52:25.62 ID:x1All8ze0
左様カッコヨスwwwww
270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:52:35.60 ID:Kb3Ze7AQ0
あちいなwwwwwww
271 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:53:37.87 ID:RXgd8Ii60
試合の流れが変わったのは8回からだった。
4回からは敵のピッチャーも安定して、両チームとも無得点が続いた。
しかし8回の裏、スタミナの切れてきたピッチャー白須は飯田打線に捉えられ始めていた。
スコアは3−2。一点差まで詰め寄られていた。2アウトではあるものの満塁、むかえるバッターは9番。
金色に髪を染めたあの妙な男だった。
277 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:57:49.02 ID:RXgd8Ii60
タイムをとった中島はマウンドに駆け寄る。
できるだけ球数を節約したつもりの中島だったがさすがは飯田打線。
一筋縄ではいかなかった。白須の球威は落ち、変化球の切れも悪くなっていた。
「白須さん、大丈夫ですか?」
「…だだだだ大丈夫!はあ…はあ…大じょじょ丈夫ぶ!」
中島が見たところ白須はまったく大丈夫そうではなかった。息も整っていない。
ほかのポジションの選手に無理やりやらせてもいいが、ピッチャーとしては素人同然。
まるで使い物にならない。ここまでか。
中島があきらめかけたその時、できるはずのないピッチャー交代を監督が指示していた。
280 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:59:56.83 ID:RXgd8Ii60
「ピッチャー交代!」
中島は目を疑った。
281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:00:14.57 ID:UTN8Q0L+O
わわわわわわっふる、わっふ、わっふる!!
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:00:47.99 ID:CzWWycbA0
+ +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ワクワクテカテカ
(0゜∪ ∪ +
と__)__) +
283 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:01:01.14 ID:RXgd8Ii60
疑ったなんてものじゃなかった。
こんな幻想を見せるこの目を潰してやろうかと思ったくらいだ。
マウンドに歩いていくのは磯野カツオその人だった。
何故磯野がここに?そんな疑問が浮かぶ。
帽子を深くかぶったその顔からは表情を読み取ることはできない。
「出やがったな!井戸野!覚悟しやがれ!」
金髪がギャアギャアと喚いている。
288 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:04:32.40 ID:RXgd8Ii60
マウンドに登ったカツオはスローボールを5球投げただけで、投球練習を終えた。
中島は呆然として、その球を捕っては返すだけだった。
「プレイ!」
試合が再開される。
そうだ、混乱してる場合じゃない。
なぜ磯野がマウンド上にいるのかは後で考えよう。
この試合に負けたらもう野球はできないんだ。
中島は気持ちを落ち着かせる。
覚えているか、磯野。
あの夏の試合からずっと変わらないままのサインを出す。
微かに、カツオは頷いた。
292 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:07:38.17 ID:RXgd8Ii60
一閃。カツオの投げた球は中島の構えたミットに収まった。
「ストライク!」
中島はボールを捕ったまましばらく動けずにいた。
この球だよ、磯野…。
体が震えていた。
「キャッチャー!どうしたのかね?」
審判に注意される。
「あ、すいません」
中島は急いでボールをピッチャーに返す。
試合に集中しなくては。集中。集中。
294 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:10:47.82 ID:RXgd8Ii60
「くそが!」
金髪の喚く声でやっと中島は8回が終わったことに気がついた
カツオはたった三球で三振を獲った。中島は自分がどうリードしたのかいまいち思い出せなかった。
「畜生が!!」
グラウンドにバットを叩きつける金髪。
金髪は目に薄っすらと涙を浮かべていたようだったが、
中島もカツオもまったく金髪の方を見ていなかった。
296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:12:39.89 ID:KlJNfiIQ0
金髪本当は野球が大好きなんだな
297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:12:39.87 ID:UMqXV5dm0
カツヲかっこええwww
298 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:13:07.30 ID:RXgd8Ii60
ベンチに戻った中島は恐る恐る監督に尋ねてみる。
もちろん突然現れたカツオのことだ。
「あの監督、彼は一体…?」
「うん?ああ、彼ね!さっき来てな。どうしても投げたいって言ってきて。
まあうちの生徒らしいし、白須は限界だったしな!ま、いいかなって感じで」
301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:13:34.67 ID:x1All8ze0
監督wwwww
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:13:42.55 ID:CzWWycbA0
監督wwwwwwwwwww
306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:16:27.33 ID:hJyMd52t0
高校野球は名簿に載ってない選手でも試合に出られるの?
310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:17:44.43 ID:VsrB3ZBUO
>>306
練習試合だもの
311 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:18:24.55 ID:hJyMd52t0
そうだった。
練習試合だったな。
303 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:14:09.73 ID:RXgd8Ii60
監督は笑う。どうやらこの監督はかなりアバウトな人間だったようだ。
中島は監督に対する認識を改めた。そしてチラリとカツオの方に目をむける。
帽子で顔を隠し、寝ているようにも見えた。話しかける勇気はなかった。
「チェンジ!」
あっという間に9回表の岩志の攻撃は終了した。
さすがにベスト4、ここまできてボロは出さないようだ。
この回を0点に抑えれば勝ち。中島は深呼吸をしてマスクをかぶった。
307 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:17:11.01 ID:RXgd8Ii60
「ストライク!バッターアウト!!」
構えたミットに突き刺さる、正確無比なそのボール。
磯野カツオの球はあの頃からちっとも衰えていなかった。
これで2アウト。あと一人。中島はカツオの凄さを再認識していた。
しかしその一方であのマウンドに立っているのがカツオだということをまだ信じられずにいた。
打順はクリーンアップだ。それでも中島はまったく不安を抱かなかった。
318 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:21:11.13 ID:RXgd8Ii60
中島の表情が歪む。あ。
キーンと鋭い音がグラウンドに響く。
わずかに甘く入った初球を狙われた。
センター前にはじき返すクリーンヒット。
球威は申し分なかった。これが強豪飯田のクリーンアップ。
先ほど抱いた自信を下方修正する。
いくら磯野と言えども、甘い球は打たれる。
相手は本気で甲子園に行こうとしてるチームなんだ。
そして次は4番か…。
中島が不意にマウンドに目を向けると、カツオが微かに笑っているような気がした。
楽しんでいるのか?磯野…。
322 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:23:52.04 ID:RXgd8Ii60
ランナー1塁。
迎えた4番陣平は体つきからしてかなりのパワーヒッターだ。
ボール球から入ろう。
中島は慎重なリードを選択した。
外角にボール一個分外れた球を要求する。
まずは様子を見なくては。
セットポジションから投げられた球は中島の目の前で
鋭いスイングに弾き返された。
打球はレフト方向に大きく伸びていった。
328 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:27:06.65 ID:RXgd8Ii60
「ファール!」
打球はわずかにポールを左に切れていった。
危なかった。あのボール球をあそこまで飛ばすとは中島も思わなかった。
磯野の全力のストレートだぞ。このやろう。
カツオは相変わらず帽子を深くかぶり、中島からは口元くらいしかはっきり見えなかった。
331 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:29:48.51 ID:RXgd8Ii60
決め球にとっておきたかったが二球目でスライダーのサインを出す。
あの打球を見せられては、下手な球を投げさせるわけにもいかない。
カツオは戸惑ったようにも見えたがゆっくりと頷いた。
第二球。外角低めに構えた中島のミットめがけて、カツオはおもいきり腕を振る。
チッ。僅かにバットにかすった球はミットに収まる。
初見でこのスライダーにまで触れてくるのか。
332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:30:43.95 ID:ehKUjZK6O
急にメジャーがみたくなった
336 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:33:45.98 ID:RXgd8Ii60
カウント2−0となったので、
つり球として高めのストレートを二球続けてみる。
が、バッターはまったく手を出さない。
うすうす感じていたことだった。このバッターなら余裕を持って見逃すのでは、と。
だがこのピンチも中島はまるで気にならなかった。
337 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:34:52.42 ID:RXgd8Ii60
カツオの球を受け始めてから、
中島は少しずつ権造との約束がどうでもいいものに思えてきていた。
今はただ、この一瞬に全てを注ぎ込めばいい。
無意識に笑みがこぼれていた。
338 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:38:33.27 ID:RXgd8Ii60
妙にすっきりとした気分だった。
腹をくくった中島はスライダーのサインを出す。
カツオは首を振った。
じゃあストレートか?
そのサインにも首を振る。
まさか、カーブか?
昔からカーブはほとんど試合で使わなかったじゃないか。
しかし、首を振るカツオ。
サインが決まらないままカツオは投球動作に移る。
おいおい磯野、ちょっと待―――
341 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:40:48.60 ID:RXgd8Ii60
―― 一年前 ――
桜は散り始め、空き地にはピンク色の花弁が踊るように舞っていた。
ホームベースの手前で、カツオの投げたボールがワンバウンドする。
「磯野はそんなに指が長くないから、やっぱりちょっときついんじゃないかな」
「高校生になる頃にはもう少し手も大きくなってるって。
それを見越して今から練習しとくんだよ。ほら構えた構えた――」
343 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:43:46.66 ID:RXgd8Ii60
――――ストンと急激に落ちた球を辛うじて中島はキャッチした。
バットはおぞましい音をたてながらも、空を切っていた。
「ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!」
344 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:44:21.28 ID:b48zIGkrO
やった!
348 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:45:48.71 ID:RXgd8Ii60
試合開始から今まで、
桜の木の下に一人の老人が座っていることに誰一人として気がつかなかった。
354 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:48:03.33 ID:RXgd8Ii60
老人はフンと鼻を鳴らす。
「ワシには一回もあんな顔見せたことなかったのにな」
立ち上がり、今年はもう散ってしまった桜の木に寄りかかる。
350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:46:46.71 ID:7S7b1gLP0
権造・・・・。
お前の目には何が映ったんだ・・・。
352 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:47:04.72 ID:b48zIGkrO
>>348
権造良い意味で涙目wwww
360 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:50:08.41 ID:RXgd8Ii60
グラウンドに目を向けると、飛び跳ねる孫の姿が見えた。
「フン。好きにしろ…博」
不機嫌そうに呟いた老人だったが、その顔はなぜか満足げに笑っていた。
362 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:52:01.93 ID:RXgd8Ii60
飛び跳ねて喜んでいた中島は、なぜか急に桜並木に目を奪われた。
誰もいない。なんであそこが気になったんだろう。
わからない。
それよりも、なにか忘れているような気がした。
368 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:55:46.07 ID:RXgd8Ii60
「…磯野!」
そうだ。磯野はどこにいるんだ?さっきまでここで試合をしていたっていうのに。
中島はグラウンドを隅から隅まで探した。しかしカツオは見つからない。
ほかの部員に聞いても、試合終了とともにフラリと消えてしまったというのだ。
水臭いな。
まったく礼ぐらい言わせてくれてもいいだろ、磯野。
「磯野…ありがとう」
誰もいなくなったマウンドに向かってそんな言葉を投げかけた。
372 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:59:00.98 ID:RXgd8Ii60
午後7時、外はすでに暗くなっていた。
疲れ果てたカツオは部屋で机に突っ伏している。
家族はカツオに何も聞いてこない。それがありがたかった。
できるだけのことはやったはずだ。後悔はしていない。
激しい睡魔がカツオを襲う。
374 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 14:01:12.74 ID:RXgd8Ii60
不意に玄関のチャイムが鳴った。
「ちょっと手が離せないからカツオお願い〜」
サザエの大声がキッチンから部屋まで届く。
「はいはい」
やれやれといった様子で疲れた体を玄関に運ぶ。
ドアを開けた。
「おーい磯野、野球…しようぜ!」
震えた声で答えた。
「…バーカ、もう真っ暗だよ…」
完
378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:04:08.88 ID:Kb3Ze7AQ0
ぐおおおおおぐっじょぶぐbbじょぼおぶ>>1乙!
391 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:09:18.42 ID:9al0A4JmO
>>1乙
楽しめたぜ
393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:09:53.57 ID:5heDgCdzO
>>1先生乙
素晴らしい作品だった
今までサザエパロディが悲惨な話しか無いことにイライラしていた
だからこんなに素敵な話を読むことができて嬉しかった
どうもありがとう
394 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 14:10:06.14 ID:RXgd8Ii60
ここまで読んでいただいた皆さんお疲れ様でした
ありがとうございます
この話を書こうと思ったきっかけは
「カツオは120km/hの速球を投げる本格派らしい」
という吹いたスレタイスレのなかにあったものを見たことでした。
400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:17:03.75 ID:WG2xBzTMO
>>1乙
何だろう、胸に込み上げるこのノスタルジア
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 19:03:41.17 ID:WG2xBzTMO
あぁ!しまった!!
サザエさん見逃したorz
人生でサザエさん見逃してこんな複雑な気持ちになる日って今日だけだろうな
そう言って最後にあいつが家にやってきたのはいつだっただろうか。
トーストの匂いがする。窓から太陽の光が射し込み、カツオは目を覚ました。
気持ちのいい朝だった。季節は春、四月の下旬だ。
磯野カツオは今年の春から高校生になった。
小学生のころから成績があまりよくなかったカツオが
ハイレベルの進学校に入れたことは快挙だった。
合格を知らせたときの波平の喜びようをカツオは今も覚えている。
カツオは布団から這い出て、コトコトと音のするキッチンに顔を出した。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:17:55.08 ID:RJji9MBO0
キッチンでは珍妙な髪型の女性が目玉焼きを作っている。
「あら、今日は珍しく早いじゃないカツオ」
フグ田サザエ、歳の離れたカツオの姉だ。
お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけたりするくらいパワフルな女性だ。
「僕だって早起きすることぐらいあるよ。失礼だな姉さんは」
「ゴメンゴメン。もうすぐご飯できるから顔洗って来なさい」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:19:54.63 ID:RJji9MBO0
洗面所には先客がいた。
「おはよう、マスオ義兄さん」
「あ、カツオ君か。おはよう。もう少し待ってもらえるかい?」
髭剃りを中断して挨拶を返すマスオ。
その律儀な性格。さすが姉さんの夫が勤まるだけのことはあるとカツオに思わせた。
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:22:21.42 ID:RJji9MBO0
間が持たないなと思ったカツオはマスオに話しかける。
「マスオ義兄さん、父さんの姿が見えないけどまだ寝てるの?」
「お義父さんは朝一で会議があるらしくてね。もう出かけちゃったんだ」
「そうなんだ、父さんもまだまだ元気だな」
「お義父さんの心配をするなんてカツオくんもなかなか親孝行になったじゃないか」
髭剃りを終えたマスオは笑いながら洗面所を後にした。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:24:21.11 ID:RJji9MBO0
身支度を整えたカツオは居間で家族と朝食をとる。
波平は出かけ、タラヲはまだ寝ているため五人での朝食だ。
「お母さん、私今日はちょっと遅くなるかも」
「おや、何か用事でもあるのかい?」
「ちょっと友達と野球部の練習試合の応援しようと思って」
「暗くならないうちに帰ってきなさいよ」
「はーい」
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:26:34.08 ID:RJji9MBO0
カツオはトーストはかじりながら、フネとワカメのいつも通りの会話を聞いていた。
磯野フネ、カツオの母でありよく気がつく優しい女性だ。
最近は少し体が弱くなってきているみたいだが、本人はまだまだ元気と言い張っている。
妹のワカメはさっさと朝食を終え、中学校へ出かけようとしていた。
玄関に向かおうとしたワカメはなにか思い出したように振り返った
「そういえばお兄ちゃん、うちの中学って今年も野球部強いんだっけ?」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:28:36.81 ID:RJji9MBO0
―――去年の夏―――
「フォアボール!」
その夏一番の暑さだった。
気温は35度、照りつける太陽の下、ここ山馬グラウンドで中学野球地区大会の決勝戦が行われていた。
制球が定まらなかった。帽子を取った少年はユニフォームで汗をぬぐい、マウンドの上でふうっと息をつく。
9回裏2−1 1アウトランナー2塁1塁 少年のチームは1点リードのまま最終回を迎えていた。
「タイム!」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:31:34.21 ID:RJji9MBO0
メガネをかけたキャッチャーの少年がマウンドに駆け寄ってくる。
「球はまだ走ってる。悪くないぞ!あとひとふんばりだ磯野!」
カツオは腕を組んでおどけて答える。
「まあ、負けても命までとられるわけじゃないからな。いつも通りやるさ」
「……そうだな。やっぱり磯野は落ち着いてるな。じゃあ、いつも通り頼むよ」
そう言って中島はポジションにもどっていった
カツオはもう一度ユニフォームで汗をぬぐう。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:35:11.29 ID:RJji9MBO0
カツオと中島は小学校からの親友で、
昔から時間があるたびに野球ばかりして遊んでいた。
二人は中学校に入ると当然のように野球部に入った。
カツオはそのしなやかなフォームからくり出されるノビのある直球を、
中島は強肩と意外性のあるリードを監督に評価されてバッテリーを組まされた。
親友同士ということもあり二人の相性は抜群で様々な試合で活躍していった。
そして三年最後の夏、ついに地区大会決勝までたどりついたのだった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:38:56.72 ID:RJji9MBO0
「ストライク!バッターアウト!!」
矢のようなストレートが中島のミットに吸い込まれていった。
「ナイスボール!」
中島がうれしそうにボールを返す。
お前こそいつも通り落ち着いているじゃないか、とカツオは苦笑した。
相手チームの3番を三振にとり、これで2アウトランナー2塁1塁。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:40:46.68 ID:RJji9MBO0
「あと一人よ〜、磯野く〜ん!」
ベンチでマネージャーの花沢さんが声を張り上げている。
花沢さんは昔からカツオにぞっこんで今もこうしてくっついてきている。
カツオは昔から彼女のことを少し鬱陶しく、しかしそれでいて鬱陶しく感じていた。
あと一人といってもその一人が4番なんだ…。簡単に言ってくれるなよ。
そう思いながらもカツオはテンポよく投げ込んでいく
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:52:37.24 ID:JWhgIJTpO
>>14
>少し鬱陶しく、しかしそれでいて鬱陶しく感じていた。
鬱陶しく感じすぎwwwwww
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:44:43.20 ID:RJji9MBO0
「ストライク、ツー!」
低めのスライダーで空振りを取りカウントは2−2となる。
この暑さでカツオはかなりスタミナを消耗していた。
カツオは目の前がボーっとしてきていたが
強く首を振り、しっかりしろと自分に言い聞かせる。
「あと一球、か」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:46:59.13 ID:RJji9MBO0
中島のサインを確認して首を縦に振る。
インコース高めのストレート。このバッターの苦手コース。
さすがに中島はよく研究している。これで終わりだ。
残りの力を振り絞り、カツオは要求通りの球を放った。
その時、中島は目を疑った。まさか。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:49:53.09 ID:RJji9MBO0
カツオの球をヒットにするのは難しいと判断したバッターは奇策に出た。
バント。打球は勢いなく正面、ピッチャーとキャッチャーの間に転がる。
「俺が取る!」
駆け出したカツオは声を張り上げボールをつかむ。その瞬間カツオの体がふらっとよろめいたのを中島は見た。
「磯野!!」
カツオの投げたボールは―――ファーストの横を大きく逸れていった。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:52:53.87 ID:RJji9MBO0
「―――お兄ちゃんったら、ねえ?」
ワカメは不思議な顔をしている。
「ん?ああ、まあそこそこ強いんじゃないかな」
気のない返事をする。
「ふーん、お兄ちゃんがいたときはすごく強かったのにね。いってきまーす」
ワカメはそんなことを言って、短いスカートをヒラヒラさせ駆け出していった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/01(土) 22:55:22.12 ID:CAr1VMjL0
中学生になってもあのパンチラは不滅ですか?
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:55:53.92 ID:RJji9MBO0
「カツオ、あんたもそろそろ出ないと」
姉さんと母さんは朝食の後片付けを始めていた。
「うん姉さん。今行くよ」
玄関を出ると春にしてはまだ少し肌寒い風が吹いていた。
「野球部…か」
誰にも聞こえないような声でカツオは呟いた。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 22:59:32.24 ID:RJji9MBO0
カツオの通う岩志高校までは徒歩で約三十分。
いつもの道をカツオは一人で歩いていた。
「磯野くーん、おはよー!」
大きな声でカツオの名をよぶのは花沢さんだった。
静かに登校したかったカツオにとっては少し鬱陶しい。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:03:43.18 ID:RJji9MBO0
彼女もカツオと同じく岩志高校に進学していた。
まったく、どこまで僕についてくる気なんだろう。
カツオはやれやれと首を振った。
「磯野君、聞いたわよ。こないだの学力テストで学年三位だったらしいじゃない。
昔は全然勉強できなかったのにね磯野君。どうしちゃったのよ?」
ガハハハと笑いながら花沢さんが話しかける。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:07:53.97 ID:RJji9MBO0
「別に。他にやることがなかっただけだよ」
前を向いたままつまらなそうにカツオは答える。
「あ、ごめんね…磯野君」
花沢さんは申し訳なさそうな顔をしている。
「何が?」
それだけ言うとカツオは歩くスピードをあげて一人で学校へと歩いていった。
そう、他にやることがなかっただけさ…。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:08:58.17 ID:QyPpTpgN0
でも現実でもカツオみたいな子が中学から伸びるよね。
真面目だと精神的に潰される。
遊びでストレス発散できる奴は上がっていく
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:12:13.07 ID:RJji9MBO0
中島がカツオと同じ高校に入学したのは予想外だった。
”あの試合”以来二人は話すこともなく疎遠になってしまっていた。
決勝のミスのことでチームのみんなはもちろん、中島もカツオを責めなかった。
しかしそれからというもの中島は急によそよそしくなった。
二人でやっていたピッチング練習にも来なくなった。
初めはそのうち来るだろうと思い、カツオは高校野球に向け一人で硬球を使って投げ込んでいた。
二人は同じ高校に進学して、甲子園を目指そうと前から言っていたからだ。
しかし一週間たっても中島は来ない。おかしいと思ったカツオは中島のクラスに行って事情を聞くことにした。
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:16:35.00 ID:RJji9MBO0
「どうしたんだよ中島。最近ぜんぜんピッチング練習に来ないじゃないか」
少し強めの口調でそう言ったカツオに対して中島は何か後ろめたそうな顔をしている。
「あ、磯野…」
「もしかして怪我でもしたのか?」
「いや、怪我はしてない…」
「わかったぞ、彼女でもできたんだろ?」
「いや…」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:18:28.96 ID:RJji9MBO0
中島は妙に歯切れが悪かった。
「じゃあ、いったいどうしたんだよ。俺のミスのこと怒ってるのか?」
「違う!そんなんじゃないんだ…。ただ…」
「ただ?」
「…」
中島は何も言わない。
「おいおい、本当にどうしたんだよ。
二人で野球推薦とって、高校で甲子園目指すんじゃなかったのかよ!」
「…」
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:22:28.02 ID:RJji9MBO0
中島は黙ったまま。こいつ、何考えてんだ。
カツオは中島の肩をつかみ、声を荒げた。
「やっぱりあんな凡ミスするような奴とは組めないってのか!
何とか言えよ、中島!」
「ちょっと磯野君、落ち着いてよ!」
中島と同じクラスの花沢さんがカツオの制服を引っ張る。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:27:53.74 ID:RJji9MBO0
そのとき、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
いつの間にか、教室にはカツオ達以外の生徒はいなくなっていた。
中島のクラスは次の時間移動教室だったらしい。
「…じゃあ、行くから」
中島はそんな言葉を残しカツオの前から去っていった。
「磯野君…」
花沢さんは心配そうにカツオの顔を見つめている。鬱陶しい。
何も言わなかった中島の背中を見つめながらカツオはギュっと唇を噛み締めた。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:32:54.77 ID:RJji9MBO0
その日以来カツオは野球の練習をしなくなった。
自分に何も言わずに野球をやめた中島のことが信じられなかった。
それからというもの二人の関係はぎこちなくなり、今までのように話せなくなってしまった。
そして野球を辞めたカツオは勉強に精を出し始める。
元から頭の回転は速かったカツオは、ぐんぐんと成績を伸ばした。
そしてこの春県内トップクラスの進学校である岩志高校に合格した。
疎遠になった中島の志望校など知るはずもなかったカツオは入学式で中島をみかけたときひどく驚いたものだ。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:37:22.50 ID:RJji9MBO0
花沢さんと出会った事以外はこれといったこともなく一日をを終え、
学校から帰宅したカツオは家族で晩御飯を食べていた。
TVではプロ野球中継が流れている。
「さあロッテが1点リードのまま9回表、ロッテはマウンド上に小林雅英を送り込んできました!」
「それでね、練習試合は一点差でうちの学校が負けちゃったのー。惜しかったんだから!」
今日のできごとを波平とフネに話すワカメ。もはや晩御飯時の定番だ。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:41:53.46 ID:RJji9MBO0
ワカメは話し続ける。
「野球部の人ってやっぱり巨人ファン多かったわ。お父さんも巨人ファンよね?」
「左様」
「あーっと、1アウトを取ったところまでは良かったんですが、
そこからヒット、そして二者連続フォアボールでなんと満塁です!!!!」
「そういえばお兄ちゃん、中島さんが試合見にきてたわよ」
「え?」
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:47:10.43 ID:RJji9MBO0
動揺が走る。カツオは箸でつまんだ大根の煮物を落としそうになった。
「一生懸命後輩の応援してたわよ。中島さん、高校でも野球部入ったんですって。
お兄ちゃんも入れば良かったのにね。」
「あ…ああ、そうだな。ご、ごちそうさま」
「あら、もういいの?」
サザエが驚いた顔でカツオを見た。
「うん、部屋で宿題してくるよ」
「ひっかけた!4、6、3 ダブルプレー!!ゲームセット!
7−6 乱打戦を制したのはロッテ!!自分で作ったピンチを自分で切り抜けました小林雅英!!!」
カツオは足早に居間を出た。
TVの野球中継がひどく不快に聞こえた。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:48:24.99 ID:RJji9MBO0
部屋に戻ったカツオは混乱していた。
どういうことだよ中島…。
あの時、何も言わずに野球をやめたのはお前のほうだろ?
それを今更になって、なんだっていうんだ。
机を叩く。
そうだ、僕にはもう関係ない。
何をこんなに動揺しているんだ僕は。
もう、終わったことなんだ…。
結局その日の宿題はまったくはかどらないままだった。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:51:30.52 ID:RJji9MBO0
中島の部屋のドアが開く。
「博、今日はずいぶん帰りが遅かったな」
中島の祖父権造はひどく不機嫌そうだった。
「後輩の練習試合の応援に行ってたんだよ」
遠慮がちに中島は口を開く。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:53:09.84 ID:RJji9MBO0
「フン。お前は中島家の跡取りだぞ、いつまでも野球なんぞにうつつをぬかしおって。
ゆくゆくはワシの会社を継いでいかねばならぬ身。野球とは早々に縁を切るべきなんだ。
中学の時でやっと終わったと思うたのに…。高校に入ってまたわがままを言いだしおって。
もう一度言っておくがな、あと一度でも試合に負けたら野球はそれまで。勉強に専念してもらうからな」
「わかってるよ…おじいちゃん」
どこか説明口調の権造はフンと鼻を鳴らして部屋を出ていった。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:54:05.61 ID:YSvB7vg30
権造うぜぇwwwwww
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/01(土) 23:55:53.78 ID:RJji9MBO0
中島の両親は十年前に事故で他界していた。
残された兄弟の面倒を今までみてくれていたのは父方の祖父権造だった。
権造は大会社の社長をしている。
跡継ぎの父さんが不運な事故で亡くなってからは中島の兄を跡継ぎとして育てていた。
権造は時に厳しく兄に当たった。跡継ぎとしての兄に対する期待の表れだったのだろう。
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:00:15.28 ID:RXgd8Ii60
しかし、そんな生活に嫌気がさしたのだろうか。
二年前、中島の兄は何も言わずに突然行方をくらました。
やはり家に不満があったのかもしれない。
いなくなった今、兄の真意を確かめる術はどこにもなかった
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:04:22.13 ID:RXgd8Ii60
そして残った弟の方に権造の期待が集中するのは当然のことだった。
しかし当時中学生だった中島は熱心に野球に打ち込んでいた。
権造には野球は中学で終わりにしろと言われていたが、
”地区大会で優勝したら、これからも野球を続けさせて欲しい”
そう権造に進言したのは中島だった。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:05:09.19 ID:RXgd8Ii60
キャプテンだった中島は自分のチームの実力を十分に把握していた。
このチームなら問題なく優勝できると。
そしてなによりカツオの投げる球を誰よりも信じていた。
しかし結果は…。
優勝できなかった中島は野球をやめさせられて、勉学に励むことになった。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:08:56.88 ID:RXgd8Ii60
キャッチャーミットを磨きながら物思いにふける。
祖父には感謝していた。両親のいなくなった僕をここまで育ててくれたんだから。
それでなくても息子夫婦の突然の死、
孫の失踪で祖父の精神状態はボロボロだということに僕は気づいていた。
これ以上祖父を傷つけるのは避けなければならなかった。
それでも野球を捨てたくなかった。どうしても野球を続けたかった。
だから条件付きでもう一度だけ野球をやらせてもらっている。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:10:05.36 ID:WG2xBzTMO
中島…
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:15:41.36 ID:RXgd8Ii60
磯野には本当のことを言っていなかった。
言えば自分のせいで僕が野球をやめることになったと自分を責めただろうから。
でもあいつはきっと僕がいなくても野球を続けるに違いない。
そう思っていた。だが磯野は野球を捨ててしまった。
僕の態度にひどくショックを受けたのかもしれない。
磯野には本当に悪いことをしたな。
あれから、なんとなく磯野とは気まずくなってしまった。
何か気の利いた言い訳でも考えておけばこんなことにはならなかったかもなと今も後悔している。
ごめんな、磯野。
窓の外を見ると半分欠けた月が夜空にうかんでいた。
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:19:15.79 ID:RXgd8Ii60
次の日、学校が終わり帰途についていたカツオの前に急に人影が現れた。
花沢さんだった。カツオは大きくため息をつく。
「ち、ちょっと磯野君!た、大変…よ!」
「どうしたんだよ花沢さん?そんなに息を切らし――」
「いいから来なさい!」
花沢さんはグイっとカツオの腕を引っ張り走り出した。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:23:59.76 ID:RXgd8Ii60
「ちょっと花沢さん!」
引っ張られること約五分、
カツオが無理やりつれてこられたのは学校の近くにある古びたバッティングセンターだった。
ところどころ緑色のネットが破れていて、危なっかしい。
「いい加減この手を離してくれないか?」
うんざりしたようにカツオは上を向く。
そんなカツオをお構いなしに花沢さんは物陰に隠れた。
88 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:30:19.01 ID:RXgd8Ii60
「ここがどうしたっていうんだよ」
「見てよほら」
バッティングセンターの片隅に目を向ける。
そこには岩志高校の生徒と知らない学校の制服を着た三人の生徒がいた。
「オイオイ!!どーした、ひょろ男クン!」
「ヒャハハ!そんなへっぴり腰でボールが打てるかよ!!」
岩志高校の生徒は精一杯バットを振っているようだがちっともボールに当たっていなかった。
「よし、これでヒットの本数は…43対3だな。さっさと4千円だせや!」
「ひぃ…勘弁してください」
やりとりからするとヒットの本数で勝負をしているらしい。
まあ、お互い合意の勝負ではなさそうだが…。
90 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:34:01.90 ID:RXgd8Ii60
「あいつら飯田高校の野球部よ。
あそこは野球強いけど、ガラが悪いって評判だわ。
やられてるのはうちの一年の伊勢くんね」
聞いてもいないのに花沢さんはつらつらと説明してくる。
「それで?僕にどうしろと?」
「決まってんじゃない、磯野君の剛速球であいつらをやっつけてよ!」
昨日の朝は野球の話題を連想させて気まずそうにしていたくせに、一晩たったらこの有様だ。
カツオは呆れ返っている。
92 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:38:07.96 ID:RXgd8Ii60
まだ全部完成してないんでもうちょっとしたら一回切ります
再開は明日の昼ごろかと…それまでに完成させます
とりあえずもうちょっと頑張る
「僕が野球をやめたのは知ってるだろ?」
「まあまあ人助けだと思って、ね?」
正義感が異常に強い花沢さんがこうなってしまっては説得のしようもない。
やれやれといったふうにカツオは肩をすくめた。
「好きにしたらいいさ」
「そうこなくっちゃ!」
96 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:42:22.70 ID:RXgd8Ii60
花沢さんはまさに水を得た魚だ。
物陰から飛び出した花沢さんは不良たちの前に躍り出た。
「待ちなさいあんた達!そのお金を彼に返しなさい!」
「なんだこの女?」
金髪の男が怪訝な目で花沢さんを見る。
「勘違いすんなよネーちゃん。
俺達はこいつと真剣勝負して勝ったから金をもらったんだよ!なあ!?」
三人の中で一番背の高い男がバットを振りかざし伊勢君に怒鳴る。
「…いえ、その…はい」
弱弱しく呟く伊勢君。カツオ達以外周りに誰も人はいない。
98 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:46:43.84 ID:RXgd8Ii60
「だったらこっちが勝負に勝ったらお金を返してくれるってことよね?」
勝ち誇ったように腕を組む花沢さん。
「あ?」
「ここにいる彼と一打席勝負してもらうわ!」
カツオは無理やり前に押し出された。
三人組はジロジロとカツオを見て、なにやら話し合っている。
一分かそこら経っただろうか。
「よーしいいだろう、ついてこい」
そう言うと三人組はだらだらと歩いていった。
面倒なことに巻き込まれた。あらためてカツオはそう思った。
不良と関わることですらかなり面倒なのに、そのうえ野球勝負?
言いだしっぺの花沢さんは鼻を膨らませてやる気満々だ。鬱陶しい。
伊勢君の方を見てみる。震えてそれどころじゃなさそうだ。
99 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:48:13.47 ID:RXgd8Ii60
「ここでいいだろ」
デブの男が空き地を指差した。
その空き地はかつて中島とピッチング練習をしていた空き地だった。
皮肉なものだ。カツオは懐かしげに空き地の土管を眺めた。
デブは土管に噛んでいたガムを吐き捨て、また新しいガムを噛み始めた。
「俺らが負けたらこいつに金を返す。で、俺らが勝ったらいくらくれるんだよ?」
金髪は明らかになめた口調でボールを弄んでいる。
強い風が、空き地を吹き抜けた。
100 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:52:07.78 ID:RXgd8Ii60
なぜか、無性に腹が立った。
こいつらがこの空き地にいることが気に食わなかった。
消えろ。消えろ。消えろ。
気がついたらとんでもないことを口走っていた。
「バットにボールが当たったら一万円あげるよ」
「磯野君!?」
「ああ!?ナメてんのか!?」
金髪がこちらを睨む。
「いいじゃねえか、楽に金が手に入るんだからよ」
ノッポとデブはへらへら笑っている。
101 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 00:58:00.54 ID:RXgd8Ii60
「ちょっと磯野君!大丈夫なの!?」
駆け寄ってくる花沢さん。
言いだしっぺは彼女なのに大層慌てている。
「黙ってってくれないか」
うざったそうに花沢さんを振り払い、カツオは三人組から離れた場所に歩いていく。
どうやら金髪の男が勝負するようだ。
「それじゃあ、始めようか」
カツオはゆっくりと振りかぶる。
空を見上げると、いまにも雨が降りそうな真っ黒な雲が広がっていた。
もう誰も見てないかもしれないけど
ここで切ります皆さん乙でした
再開は明日(っていうかもう今日ですが)の昼ごろです
スレタイは一緒にしときます
このスレが残ってればここ使います。
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:58:42.61 ID:KocDNo3s0
>>101
激しく乙!
楽しみにしてるよ
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 00:59:46.67 ID:O7aRSp720
ぐああああああ
生殺しいいいいいい
---------------------------------------------------------------
147 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 10:02:05.31 ID:RXgd8Ii60
スレが残ってる!
保守の皆さん本当に乙
ほとんど完成したので
12時くらいから書き始めようと思います
161 :1:2007/12/02(日) 11:04:00.04 ID:B5LXxd2a0
再開します
不良達がボールを投げた。
いい球ではあった。「第一球空振り!」
不良達がわらっている。今のカツオの手には当時の感覚はなかった。
「第二球空振り!」
不良達が声高々に言う。
そういえば、中島との野球もこんな感じだったっけな。
「第二球空振り!おい、磯野。それじゃあ来週の試合には間にあわないよ」
あのときの中島の声が突然聞こえた気がした。
不良達が3球目を投げる。カツオがそれに対して大きく振りかぶる。
「空振り三振!!!!」
結果は残酷だった。不良達にやすやすと負けるほどカツオの腕は落ちていたのだ。
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:08:55.43 ID:UMqXV5dm0
再開ktkr
また読ませてもらうぜ
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:12:26.77 ID:TO0Ga/8L0
なぜカツオがバッター?
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:14:18.94 ID:aUq9AJnzO
違うだろwww
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:15:34.25 ID:UMqXV5dm0
うはwwwよく見たらIDちげーよ/(^o^)\
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:21:03.85 ID:5heDgCdzO
カツオちゃんの身を真剣に案じてしまったではないか!
あー、ハラハラした…
168 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:19:24.78 ID:RXgd8Ii60
あれ俺が二人いるwwww
早めに再開
曇り空の下、岩志高校のグラウンドでは十数人の部員たちが守備練習をしていた。
「よーし集合!」
監督の声が響く。部員たちは監督の前へと急いで集合した。
「えー、急な話だが今週の土曜日に飯田高校と練習試合をすることになった」
部員たちのあいだにざわざわとした声が広がる。
「飯田ってあの強豪の?」
「たしか去年は県でベスト4に入ったよな…」
「おい、静かにしろ!まあ、胸を借りるつもりでやれ。練習試合だからな」
監督が話し終えるとポツポツと雨が降り始める。
「今日はこれで解散!土曜日は十時に試合開始だからな、遅れるなよ!」
練習は雨のせいで早めに終わることになったようだった。
170 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:21:47.34 ID:RXgd8Ii60
「冗談じゃないぞ」
雨の降る帰り道で中島は一人つぶやく。
まだ四月。チームはしっかりとまとまっていない。
そんな中で、飯田高校と練習試合?
だからこその練習試合か…。チームには良い経験になるだろう。
しかし今はピッチャーが一人怪我をしていて、まともに投げられるのは一人。
明らかに戦力に差がありすぎる。勝つのは厳しい。
174 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:24:07.76 ID:RXgd8Ii60
部員が少ないこともあり
一年生ながら中島はキャッチャーとしてレギュラーに入っていた。
真っ暗な空を見上げる。
負けたらそこで終わりなんだ。
おじいちゃんは練習試合でも例の約束を持ち出してくるだろう。
ちくしょう。勝てる気がしない。でも…負けるわけにはいかない。
175 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:26:21.70 ID:RXgd8Ii60
磯野…。
いや、磯野はもういないんだ。
時々、思うことがあった。
僕は磯野の投げる球を誰よりも信頼していた。
でも僕は磯野を信頼していたのではなく、
いつの間にか野球を続けるために利用していたのでは?
176 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:27:49.85 ID:RXgd8Ii60
どちらにせよもう磯野に頼ることはできない。
あいつに僕の事情を押し付けるのは卑怯だから。
「そう、決めたんだ」
先ほどから急に降り出した雨は、ますます激しさを増していった。
177 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:29:18.54 ID:RXgd8Ii60
たった三球投げただけ。
それなのに、頭がくらくらした。
180 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:31:31.25 ID:RXgd8Ii60
激しい雨が降る中でカツオは空き地に背を向けた。
金髪はバットを持ったまま立ち尽くしている。
その後ろでノッポとデブは呆然としている。
三球、すべて直球だった。
しかしバットはボールにかすりもしなかった。
やがて三人組は逃げるように空き地を出て行った。
「てめえ、おぼえてろよ!」
金髪が去り際に何か言っているように聞こえたがカツオの頭には入ってこない。
182 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:34:09.02 ID:RXgd8Ii60
カツオはゆっくりと空き地を去ろうとする。
「待って!磯野くん!!」
花沢さんが必死にカツオを追いかけて走る。
「ごめんなさい、磯野くん…わたし――」
「鬱陶しいんだよ…」
「え…!?」
花沢さんは今にも泣きそうな顔をしてその場に突っ立っている。
カツオはそれ以上何も言わず、重い足取りで雨の中を歩いていった。
185 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:37:02.24 ID:RXgd8Ii60
なんだっていうんだ!
ただボールを投げるだけじゃないか!
それがどうしてこんなにも苦しいんだ?
どうしてこんなに頭が痛いんだ?
ボクハナニヲコワガッテイルンダ?
どこからか声がする。
「怖いんだろう?磯野カツオ」
黙れ。
「またミスをして見捨てられるのが怖いんだろう?」
黙れ。
「あんな肝心なところで暴投した奴は愛想を尽かされて当然さ!」
「黙れ!!!」
叫んだ。
周りにいた人が何事かとこちらを見る。
ダメだ。その場に跪く。
早く帰ってゆっくり風呂にでも入らなきゃ…。
187 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:39:26.36 ID:RXgd8Ii60
家に帰ったカツオはすぐさま風呂に向かう。
体は鉛のように重い。
脱衣所に誰かいるのに気が付いた。
半裸の波平がそこにいた。
「父さん。どうしたのこんな早く?」
「おお、カツオ。今日は会社が早く終わってな、久しぶりに一緒に入るか?」
波平が一緒に風呂に入るのは何か話したいことがあるからだと、カツオは分かっていた。
「いいよ」
口数少なくそう答えた。
191 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:43:52.57 ID:RXgd8Ii60
「父さん、背中流そうか?」
「おお、すまんな」
波平はこちらに背中を向けるといつもの調子で話し始めた。
「お前が岩志高校に合格したことがワシは本当にうれしかった」
波平は上機嫌で語る。
「またその話?」
そう言うと波平の様子が急に変わった。
「カツオ、本当に野球をやめてよかったのか?」
話す内容はいつものものではないようだ。
194 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:45:59.57 ID:RXgd8Ii60
カツオは何も答えられない。
「カツオ、中島君ともまだあのままなのか?」
「え!?父さん?」
「みんな気づいとるぞ。母さんもサザエもマスオくんも心配しとる。
ワカメは全然気づいてないみたいだが」
みんなに心配をかけている、カツオはなんとなく分かっていた。
サザエたちは何気に中島や野球の話をするのは避けていたから。
ワカメは気にもせずに話していたけど。
196 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:47:43.17 ID:RXgd8Ii60
「お前ももう高校生だ。ワシらがああしろ、こうしろとは言わん。
まあ、ちょっとしたきっかけで友達と気まずくなることはよくある。
ワシも昔そんなことがあった。」
「父さんも?」
「それじゃあ話すとするか。あれはワシが高校二年の頃だった。
そう、ワシの髪がまだふさふさで、秋の紅葉がうっすらと赤く染まる季節…」
それにしてもこの禿、ノリノリである。
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 11:49:26.55 ID:ehKUjZK6O
>>196左様wwwwww
200 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:53:39.51 ID:RXgd8Ii60
>>199
一応もう全部書いてあるんだ
いまはそれを添削しながら貼ってるだけ
縁側で夜風に当たる。
父さんの話を聞いているうちにのぼせてしまったようだ。
つまるところ友達を大切にしろってことらしいが、そんなこと百も承知だった。
ただ、今更どうしろっていうんだよ。
201 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:54:53.65 ID:RXgd8Ii60
週の終わり金曜日、授業が終わるとカツオはさっさと荷物をまとめ教室を後にした。
廊下はこれから部活の生徒や、友達と談笑する生徒でにぎわっていた。
カツオはそれらを気にもとめずに廊下を歩いていると、隣のクラスの女生徒の会話が耳に入ってきた。
「聞いた?明日野球部練習試合するんだって」
「へえー、どこの学校とやるのかな?」
「飯田高校とだって」
202 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:55:56.73 ID:RXgd8Ii60
それ以上は聞く気にならなかった。
飯田高校。この間の三人組の学校。たしか去年はベスト4だったか。
カツオは窓の外に見える野球部の練習に目を移した。
この学校の野球部では勝つのは難しい。カツオの率直な感想だった。
見たところ打線は中島もいるからそこそこのものだろう。
守備も高校野球のレベルとしては標準的だ。
問題はピッチャー。
205 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 11:57:33.16 ID:RXgd8Ii60
中島がリードしたところであのピッチャーだけでは苦しいだろう。
悪いピッチャーではない。
ただベスト4のチームを相手に最後まで持つかどうか。
せめてもうひとりピッチャーがいれば何とかなるかもしれないな。
そこまで考えてカツオはハッとした。
208 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:01:00.28 ID:RXgd8Ii60
なんで僕はこんなことを考えてるんだ。
最近の僕はどうかしている。
花沢さんの人助けに付き合ったり、こんなところで野球部の戦力分析をしたり…。
未練でもあるのか僕は…。
「まあ…精々頑張れよ、中島」
グラウンドで一際よく動いている人影にむかってカツオはそんな言葉を投げかけた。
「帰るか」
最後にもう一度だけグラウンドに目をむけ、カツオはすっかり人の少なくなった廊下を一人歩いていった。
210 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:01:54.09 ID:RXgd8Ii60
午後十時、すっかり暗くなった道を一人の少女が歩いている。
少女は小さくため息をつく。
花沢花子は落ち込んでいた。
軽率な行動で磯野君の古傷をえぐるような真似をしてしまった。
もちろん、伊勢君を助けるのが第一の目的だった。
でも、もしかしたら磯野君がもう一度野球を始めてくれるきっかけになるかもって。
それが見事に逆効果。あーあ、私ってドジな女。もう一度大きなため息をつく。
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:03:40.67 ID:VsrB3ZBUO
ヒロインみたいなポジションにいることが鬱陶しいな
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:04:10.74 ID:RB6Wm6g+O
>>211 なwww
213 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:04:13.98 ID:RXgd8Ii60
「――わかっとるな、博」
すぐそばの家から大きな声が聞こえた。
「明日の試合で負けたら―――」
そういえばここは中島くんの家だっけ。
そんなことを思う。
「―――てもらうからな」
チラリと聞こえた会話の内容が妙に引っかかる。
よし。
少女はいつの間にか聞き耳を立ててその場にしゃがみこんでいた。
214 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:06:52.06 ID:RXgd8Ii60
土曜日、練習試合当日は雲ひとつなく良い天気だった。
岩志高校のグラウンドはまわりを桜の木が囲んでいる。
あいにく暖かかった今年は桜が散るのも早く、もう花見とはいかないようだ。
八時にグラウンドに到着した中島は一人ベンチに腰掛けて、相手の戦力を冷静に分析していた。
相手の先発は立ち上がりに不安がある。攻めるなら、序盤。できるだけ点をとる。
うちの打線ならなんとかなるはずだ。
こちらの先発は少々スタミナ不足だ、なるべく球数を節約して最後まで投げきらせなければ。
なんといってもこちらにはピッチャーがたった一人しかいないのだから。
だが去年のベスト4飯田高校の打線。果たしてそう簡単に行くかどうか…。
ふと考えこんでいた頭を上げる。グラウンドにぽつぽつと部員達が集合し始めていた。
215 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:08:33.07 ID:RXgd8Ii60
いい天気だった。部屋の窓を開けグッと背伸びをする。
学校が休みなこともありカツオはいつもより遅くに目を覚ました。
時計を見るともう九時半になろうとしていた。
そういえば今日は野球部の練習試合があるんだったな…。
あくびをしながらカツオは居間へと向かった。
218 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:13:06.40 ID:RXgd8Ii60
午前十時。
「これより、飯田高校 対 岩志高校の練習試合を始めます!」
「しゃーす!!!」
お互いに整列して挨拶をする。
先攻は岩志高だった。守備につく飯田高校の選手は体がいかにも筋肉質で強そうに見える。
中島がベンチに戻ろうとすると、
野球部に似つかわしくない金髪の選手が向かってくる。
220 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:15:46.44 ID:RXgd8Ii60
「おい!おめーらのチームに井戸野ってピッチャーいんだろが!」
イドノ。中島はすかさず脳内の部員リストをチェックする。が、見当たらない。
「いえ、そんな部員いませんけど…」
「ちっ、とぼけてやがんな!確かに先発じゃねえみたいだが…
そのうちあいつを引きずり出してやるぜ!わかったか!」
金髪はブツブツ言いながら自分の守備位置に戻っていく。
中島はまったく訳が分からずにポカンとしていた。
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:17:13.36 ID:Kb3Ze7AQ0
なるほどそうキタか的支援
224 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:17:43.43 ID:RXgd8Ii60
「磯野くん!」
玄関のドアがけたたましい音をたてて開く。
それを平然と出迎えるサザエ。
「あら花沢さん。カツオに用かしら?カツオー、花沢さんよ〜」
サザエが大きな声でカツオの名を呼ぶ。
居留守を使う暇もなかったカツオは渋々玄関に赴く。
「磯野くん、ちょっと話があるんだけど!」
227 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:19:40.57 ID:RXgd8Ii60
カツオは慌てて口を開く。
「今日は――」
「今日はカツオすっごく暇で困ってたのよ〜!
さ、あがってあがって」
カツオの言葉をさえぎり、サザエが勝手に花沢さんをカツオの部屋へと案内する。
「それじゃ、ごゆっくり〜」
サザエが部屋のドアを閉める。
部屋の外からワカメの声が聞こえる。
「お姉ちゃん!お兄ちゃんもなかなかスミに置けないわね!」
酷く誤解しているようだ。勘弁してほしい。
231 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:23:13.76 ID:RXgd8Ii60
「で、話って何?」
観念したカツオは話を聞くことにした。
「まず、この間は本当にごめんなさい磯野君」
いつもより元気のない花沢さんは深々と頭をさげた。
「いいよ、この間は僕もどうかしてたんだ。頭をあげてよ」
「ありがとう。それで話なんだけど…落ち着いて聞いてね磯野くん」
カツオは首を傾げる。
少し元気を取り戻した花沢さんはゆっくりと話し始めた。
233 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:25:11.78 ID:RXgd8Ii60
中島の読みは当たっていた。
初回、先頭打者にフォアボールを出した敵の先発はやはりコントロールが安定していないようだった。
その後もフォアボールを出したピッチャーを3番の中島はここぞとばかりに叩く。
真ん中に甘く入ったカーブを思いきり振り抜いた。
打球はレフトの頭上を越えフェンス直撃。
クッションボールの処理に外野がもたついたこともあり、これが走者一掃の2点タイムリーツーベースとなる。
この回は後続が倒れて2点止まりだったが次のチャンスは3回に訪れた。
234 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:26:43.90 ID:RXgd8Ii60
2アウトからファアボールで塁に出た中島は、すかさず盗塁。
これが成功すると、岩志のキャプテンで唯一の三年である4番真黒がアウトコースの難しい球を右中間に運ぶ。
守りのほうは中島の好リードもあり、
ランナーを出しながらも二年生ピッチャーの白須が飯田打線を懸命に抑えていた。
スコアは3回の裏を終わって3−0。
岩志としてはこれ以上ない好スタートに中島はひとまず肩をなでおろしていた。
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:28:40.37 ID:SwWjlxj6O
>>234
胸をなでおろすじゃね?
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:28:54.95 ID:CzWWycbA0
なで肩なんだよ
239 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:30:21.91 ID:RXgd8Ii60
>>235
素で間違えた
「それ、本当なのかい…?花沢さん…」
花沢さんの話を聞いたカツオはひどくショックを受けていた。
「昨日中島くんの家の前を通りかかったら聞いたのよ。嘘じゃないわ」
「中島の兄さんは外国に留学してるんじゃなかったのか!?
それより、あいつ試合に負けたら野球をやめるって…。
あのときだって優勝できなかったから、野球を続けられなかったんだろ…。僕のせいだったんだ。
僕にはなんにも言ってくれなかった。どうして…」
混乱したカツオは頭を抱えてうずくまる。訳が分からない…。
カツオの目からポロポロと涙がこぼれた。
240 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:32:55.25 ID:RXgd8Ii60
「どうして!?決まってるじゃない!!
そんなふうに磯野君に責任を感じてほしくなかったからよ!
中島くんは磯野君と対等な立場で野球がしたかったのよ。
だから…だから、何も言わなかったんじゃない!」
花沢さんは声を荒げる。
「……」
カツオはうなだれたままだ。
「あなたは野球ができる環境にいたのに野球をやめてしまった。
でも中島くんは野球を続けるために今まで必死に頑張ってきたのよ!
立ってよ磯野君!今日の練習試合は十時から、今から急げばまだ試合途中には間に合うはずよ!」
ひどく鬱陶しかった。でも…
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:37:10.05 ID:ehKUjZK6O
ひどく鬱陶しいwwww
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:35:00.31 ID:EqhTkUqH0
「磯野カツオの鬱陶」
246 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:36:36.27 ID:RXgd8Ii60
全てから逃げるように目を閉じた。
真っ暗な空間。なぜか遥か遠くにキャッチャーミットが見えた。
なんでそんなに遠くで構えてるんだよ。
遠い。遠すぎる。でもギリギリだけど本当にギリギリだけど
今なら投げたボールはまだあそこまで、なんとか届くような気がした。
248 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:37:36.16 ID:RXgd8Ii60
火が点いた。
252 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:40:50.24 ID:RXgd8Ii60
カツオは顔を上げ右手を強く握りしめる。
「花沢さん…君って本当にこっちが感謝したくなるほど鬱陶しい人だね」
「あら、やっと気づいたの磯野君?」
からからと笑う花沢さん。
カツオはTシャツの裾で涙を拭いて、立ち上がり部屋のドアを開ける。
すると突然目の前に何かが飛んできた。
256 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:44:14.91 ID:RXgd8Ii60
カツオは慌ててそれを両手で掴む。
かつて使っていたスポーツバッグだった。
中を見ると、中学時代のグローブとスパイクがしっかりと手入れされて入っている。
「ついにそれを使う日がきたようね、カツオ!!」
目線を上げるとそこにはサザエとマスオが立っていた。
257 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:46:40.00 ID:RXgd8Ii60
「姉さん…これは捨てておいてって言ったのはずなのに…」
「こんな日が来るだろうと思ってこっそりとっておいたのよ!
手入れはマスオさんが欠かさずしてくれてたのよ」
勝ち誇ったようにサザエはカツオの頭を小突く。
「マスオ義兄さん…」
「感謝の言葉はいいから、急いだほうがいいよカツオ君」
二人の目が行って来いとカツオに告げる。
「いくわよ、磯野君!」
花沢さんがそう言った時、カツオはすでに玄関へと走り出していた。
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:47:38.34 ID:uy8fMpaBO
マスオかっこよす
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:48:06.37 ID:zcM0BK6j0
マスオwwwwwwwww
396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:11:45.44 ID:b48zIGkrO
マスオは高校時代、豪速球でならしてた(自称)
これ豆知識な
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:03:40.41 ID:5heDgCdzO
マスオさんの奥ゆかしさが最大限に発揮されとるw
こんな義兄さん欲しいわ
262 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:48:51.97 ID:RXgd8Ii60
もう、あの時のようには戻れないかもしれない。
でももう一度やり直せるなら。
どんなに滑稽でもいい。どんなに惨めでもいい。
走れ。
266 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:50:46.99 ID:RXgd8Ii60
「行きましたね」
フネが湯飲みにお茶を注ぐ。
「ああ」
湯飲みを受け取り、お茶をすする波平。
「かあさん、カツオの奴ここまでくるのに半年以上もかかりおったわ」
「そうですね」
波平はうれしそうに呟く。
「馬鹿者が…」
268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:52:25.62 ID:x1All8ze0
左様カッコヨスwwwww
270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 12:52:35.60 ID:Kb3Ze7AQ0
あちいなwwwwwww
271 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:53:37.87 ID:RXgd8Ii60
試合の流れが変わったのは8回からだった。
4回からは敵のピッチャーも安定して、両チームとも無得点が続いた。
しかし8回の裏、スタミナの切れてきたピッチャー白須は飯田打線に捉えられ始めていた。
スコアは3−2。一点差まで詰め寄られていた。2アウトではあるものの満塁、むかえるバッターは9番。
金色に髪を染めたあの妙な男だった。
277 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:57:49.02 ID:RXgd8Ii60
タイムをとった中島はマウンドに駆け寄る。
できるだけ球数を節約したつもりの中島だったがさすがは飯田打線。
一筋縄ではいかなかった。白須の球威は落ち、変化球の切れも悪くなっていた。
「白須さん、大丈夫ですか?」
「…だだだだ大丈夫!はあ…はあ…大じょじょ丈夫ぶ!」
中島が見たところ白須はまったく大丈夫そうではなかった。息も整っていない。
ほかのポジションの選手に無理やりやらせてもいいが、ピッチャーとしては素人同然。
まるで使い物にならない。ここまでか。
中島があきらめかけたその時、できるはずのないピッチャー交代を監督が指示していた。
280 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 12:59:56.83 ID:RXgd8Ii60
「ピッチャー交代!」
中島は目を疑った。
281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:00:14.57 ID:UTN8Q0L+O
わわわわわわっふる、わっふ、わっふる!!
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:00:47.99 ID:CzWWycbA0
+ +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ワクワクテカテカ
(0゜∪ ∪ +
と__)__) +
283 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:01:01.14 ID:RXgd8Ii60
疑ったなんてものじゃなかった。
こんな幻想を見せるこの目を潰してやろうかと思ったくらいだ。
マウンドに歩いていくのは磯野カツオその人だった。
何故磯野がここに?そんな疑問が浮かぶ。
帽子を深くかぶったその顔からは表情を読み取ることはできない。
「出やがったな!井戸野!覚悟しやがれ!」
金髪がギャアギャアと喚いている。
288 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:04:32.40 ID:RXgd8Ii60
マウンドに登ったカツオはスローボールを5球投げただけで、投球練習を終えた。
中島は呆然として、その球を捕っては返すだけだった。
「プレイ!」
試合が再開される。
そうだ、混乱してる場合じゃない。
なぜ磯野がマウンド上にいるのかは後で考えよう。
この試合に負けたらもう野球はできないんだ。
中島は気持ちを落ち着かせる。
覚えているか、磯野。
あの夏の試合からずっと変わらないままのサインを出す。
微かに、カツオは頷いた。
292 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:07:38.17 ID:RXgd8Ii60
一閃。カツオの投げた球は中島の構えたミットに収まった。
「ストライク!」
中島はボールを捕ったまましばらく動けずにいた。
この球だよ、磯野…。
体が震えていた。
「キャッチャー!どうしたのかね?」
審判に注意される。
「あ、すいません」
中島は急いでボールをピッチャーに返す。
試合に集中しなくては。集中。集中。
294 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:10:47.82 ID:RXgd8Ii60
「くそが!」
金髪の喚く声でやっと中島は8回が終わったことに気がついた
カツオはたった三球で三振を獲った。中島は自分がどうリードしたのかいまいち思い出せなかった。
「畜生が!!」
グラウンドにバットを叩きつける金髪。
金髪は目に薄っすらと涙を浮かべていたようだったが、
中島もカツオもまったく金髪の方を見ていなかった。
296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:12:39.89 ID:KlJNfiIQ0
金髪本当は野球が大好きなんだな
297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:12:39.87 ID:UMqXV5dm0
カツヲかっこええwww
298 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:13:07.30 ID:RXgd8Ii60
ベンチに戻った中島は恐る恐る監督に尋ねてみる。
もちろん突然現れたカツオのことだ。
「あの監督、彼は一体…?」
「うん?ああ、彼ね!さっき来てな。どうしても投げたいって言ってきて。
まあうちの生徒らしいし、白須は限界だったしな!ま、いいかなって感じで」
301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:13:34.67 ID:x1All8ze0
監督wwwww
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:13:42.55 ID:CzWWycbA0
監督wwwwwwwwwww
306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:16:27.33 ID:hJyMd52t0
高校野球は名簿に載ってない選手でも試合に出られるの?
310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:17:44.43 ID:VsrB3ZBUO
>>306
練習試合だもの
311 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:18:24.55 ID:hJyMd52t0
そうだった。
練習試合だったな。
303 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:14:09.73 ID:RXgd8Ii60
監督は笑う。どうやらこの監督はかなりアバウトな人間だったようだ。
中島は監督に対する認識を改めた。そしてチラリとカツオの方に目をむける。
帽子で顔を隠し、寝ているようにも見えた。話しかける勇気はなかった。
「チェンジ!」
あっという間に9回表の岩志の攻撃は終了した。
さすがにベスト4、ここまできてボロは出さないようだ。
この回を0点に抑えれば勝ち。中島は深呼吸をしてマスクをかぶった。
307 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:17:11.01 ID:RXgd8Ii60
「ストライク!バッターアウト!!」
構えたミットに突き刺さる、正確無比なそのボール。
磯野カツオの球はあの頃からちっとも衰えていなかった。
これで2アウト。あと一人。中島はカツオの凄さを再認識していた。
しかしその一方であのマウンドに立っているのがカツオだということをまだ信じられずにいた。
打順はクリーンアップだ。それでも中島はまったく不安を抱かなかった。
318 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:21:11.13 ID:RXgd8Ii60
中島の表情が歪む。あ。
キーンと鋭い音がグラウンドに響く。
わずかに甘く入った初球を狙われた。
センター前にはじき返すクリーンヒット。
球威は申し分なかった。これが強豪飯田のクリーンアップ。
先ほど抱いた自信を下方修正する。
いくら磯野と言えども、甘い球は打たれる。
相手は本気で甲子園に行こうとしてるチームなんだ。
そして次は4番か…。
中島が不意にマウンドに目を向けると、カツオが微かに笑っているような気がした。
楽しんでいるのか?磯野…。
322 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:23:52.04 ID:RXgd8Ii60
ランナー1塁。
迎えた4番陣平は体つきからしてかなりのパワーヒッターだ。
ボール球から入ろう。
中島は慎重なリードを選択した。
外角にボール一個分外れた球を要求する。
まずは様子を見なくては。
セットポジションから投げられた球は中島の目の前で
鋭いスイングに弾き返された。
打球はレフト方向に大きく伸びていった。
328 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:27:06.65 ID:RXgd8Ii60
「ファール!」
打球はわずかにポールを左に切れていった。
危なかった。あのボール球をあそこまで飛ばすとは中島も思わなかった。
磯野の全力のストレートだぞ。このやろう。
カツオは相変わらず帽子を深くかぶり、中島からは口元くらいしかはっきり見えなかった。
331 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:29:48.51 ID:RXgd8Ii60
決め球にとっておきたかったが二球目でスライダーのサインを出す。
あの打球を見せられては、下手な球を投げさせるわけにもいかない。
カツオは戸惑ったようにも見えたがゆっくりと頷いた。
第二球。外角低めに構えた中島のミットめがけて、カツオはおもいきり腕を振る。
チッ。僅かにバットにかすった球はミットに収まる。
初見でこのスライダーにまで触れてくるのか。
332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:30:43.95 ID:ehKUjZK6O
急にメジャーがみたくなった
336 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:33:45.98 ID:RXgd8Ii60
カウント2−0となったので、
つり球として高めのストレートを二球続けてみる。
が、バッターはまったく手を出さない。
うすうす感じていたことだった。このバッターなら余裕を持って見逃すのでは、と。
だがこのピンチも中島はまるで気にならなかった。
337 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:34:52.42 ID:RXgd8Ii60
カツオの球を受け始めてから、
中島は少しずつ権造との約束がどうでもいいものに思えてきていた。
今はただ、この一瞬に全てを注ぎ込めばいい。
無意識に笑みがこぼれていた。
338 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:38:33.27 ID:RXgd8Ii60
妙にすっきりとした気分だった。
腹をくくった中島はスライダーのサインを出す。
カツオは首を振った。
じゃあストレートか?
そのサインにも首を振る。
まさか、カーブか?
昔からカーブはほとんど試合で使わなかったじゃないか。
しかし、首を振るカツオ。
サインが決まらないままカツオは投球動作に移る。
おいおい磯野、ちょっと待―――
341 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:40:48.60 ID:RXgd8Ii60
―― 一年前 ――
桜は散り始め、空き地にはピンク色の花弁が踊るように舞っていた。
ホームベースの手前で、カツオの投げたボールがワンバウンドする。
「磯野はそんなに指が長くないから、やっぱりちょっときついんじゃないかな」
「高校生になる頃にはもう少し手も大きくなってるって。
それを見越して今から練習しとくんだよ。ほら構えた構えた――」
343 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:43:46.66 ID:RXgd8Ii60
――――ストンと急激に落ちた球を辛うじて中島はキャッチした。
バットはおぞましい音をたてながらも、空を切っていた。
「ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!」
344 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:44:21.28 ID:b48zIGkrO
やった!
348 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:45:48.71 ID:RXgd8Ii60
試合開始から今まで、
桜の木の下に一人の老人が座っていることに誰一人として気がつかなかった。
354 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:48:03.33 ID:RXgd8Ii60
老人はフンと鼻を鳴らす。
「ワシには一回もあんな顔見せたことなかったのにな」
立ち上がり、今年はもう散ってしまった桜の木に寄りかかる。
350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:46:46.71 ID:7S7b1gLP0
権造・・・・。
お前の目には何が映ったんだ・・・。
352 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 13:47:04.72 ID:b48zIGkrO
>>348
権造良い意味で涙目wwww
360 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:50:08.41 ID:RXgd8Ii60
グラウンドに目を向けると、飛び跳ねる孫の姿が見えた。
「フン。好きにしろ…博」
不機嫌そうに呟いた老人だったが、その顔はなぜか満足げに笑っていた。
362 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:52:01.93 ID:RXgd8Ii60
飛び跳ねて喜んでいた中島は、なぜか急に桜並木に目を奪われた。
誰もいない。なんであそこが気になったんだろう。
わからない。
それよりも、なにか忘れているような気がした。
368 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:55:46.07 ID:RXgd8Ii60
「…磯野!」
そうだ。磯野はどこにいるんだ?さっきまでここで試合をしていたっていうのに。
中島はグラウンドを隅から隅まで探した。しかしカツオは見つからない。
ほかの部員に聞いても、試合終了とともにフラリと消えてしまったというのだ。
水臭いな。
まったく礼ぐらい言わせてくれてもいいだろ、磯野。
「磯野…ありがとう」
誰もいなくなったマウンドに向かってそんな言葉を投げかけた。
372 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 13:59:00.98 ID:RXgd8Ii60
午後7時、外はすでに暗くなっていた。
疲れ果てたカツオは部屋で机に突っ伏している。
家族はカツオに何も聞いてこない。それがありがたかった。
できるだけのことはやったはずだ。後悔はしていない。
激しい睡魔がカツオを襲う。
374 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 14:01:12.74 ID:RXgd8Ii60
不意に玄関のチャイムが鳴った。
「ちょっと手が離せないからカツオお願い〜」
サザエの大声がキッチンから部屋まで届く。
「はいはい」
やれやれといった様子で疲れた体を玄関に運ぶ。
ドアを開けた。
「おーい磯野、野球…しようぜ!」
震えた声で答えた。
「…バーカ、もう真っ暗だよ…」
完
378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:04:08.88 ID:Kb3Ze7AQ0
ぐおおおおおぐっじょぶぐbbじょぼおぶ>>1乙!
391 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:09:18.42 ID:9al0A4JmO
>>1乙
楽しめたぜ
393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:09:53.57 ID:5heDgCdzO
>>1先生乙
素晴らしい作品だった
今までサザエパロディが悲惨な話しか無いことにイライラしていた
だからこんなに素敵な話を読むことができて嬉しかった
どうもありがとう
394 :1 ◆8jF6DdCTlE :2007/12/02(日) 14:10:06.14 ID:RXgd8Ii60
ここまで読んでいただいた皆さんお疲れ様でした
ありがとうございます
この話を書こうと思ったきっかけは
「カツオは120km/hの速球を投げる本格派らしい」
という吹いたスレタイスレのなかにあったものを見たことでした。
400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 14:17:03.75 ID:WG2xBzTMO
>>1乙
何だろう、胸に込み上げるこのノスタルジア
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/02(日) 19:03:41.17 ID:WG2xBzTMO
あぁ!しまった!!
サザエさん見逃したorz
人生でサザエさん見逃してこんな複雑な気持ちになる日って今日だけだろうな
|








