ワラノート


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キョン「過去視、或いはサイコメトリー?」 (銀幕の殺人者)

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:00:07.34 ID:vFozzCGB0
『これは、あたしの挑戦なの』


ハルヒがそのように宣言したのは、まだ茹だる様な暑さが残っていた九月のことだ。
即ち、今から二ヶ月も前のことである。

あの日を境に俺達は自主制作映画の撮影と編集に日々追われることとなり、
へとへとになりながらもこうして今日を迎えている訳だ。

何はともあれ忙しい毎日なのだが、
それだけの長い前置きがあって、ようやくにして物語は始まるという寸法だ。




3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:04:18.31 ID:vFozzCGB0
全く、嫌になるね。
秋も終わりだというのに連日降り続いているこの氷雨。
初夏に大人しかった反動か、遅咲きの反抗期のように今になって梅雨入りしたって塩梅か?
お陰さまで麗かなる紅葉を楽しめないばかりか、
一年のうちで最も過ごしやすい筈の季節を見事に台無しにしていやがる。
まあ、秋雨というには遅いがそういう季語もあるくらいだから仕方ないのだろうが。

嫌になると言えばハルヒを筆頭としたSOS団活動のほうもだ。
もう高校生活も折り返し地点だってのに、次から次へとトラブルを抱え込んできやがる。
さらには文化祭が近付いている為に、俺は連日に継ぐ映画編集作業で徹夜を強いられ、ここ一月ほどは真面に眠れた夜が無い。
全く、お前は福招きならぬ厄招きかっての。
不幸は買ってでもしろ、なんて有り難い講釈を下さる御年配の方々に手厚くプレゼントしてあげたいもんだね。

さてと。
かのようにして語った経緯によって慢性型頭痛を患ってしまった俺ではあるが、
実は今現在、大変困った状況下に置かれているらしいのだ。
現に俺の目の前にいるメイド服姿の朝比奈さんも、驚きの色を隠せないでいるしな。

ともかく、発端は無人の部室にぽつりと置かれていた湯呑み。
どうやら異変は、俺がそれに触れた時点から始まったらしい。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:06:47.38 ID:vFozzCGB0
その日も俺は、普段通りの学生生活を送っていた。
登校し、授業中には背後からのプレッシャーを去なし、滞りなく放課となり、そして。
予定調和的に文芸部部室もといSOS団室前へとやってきのだ。
通例のように、俺は朝比奈さんの婉然たる微笑みを期待しつつノックを行い、
しかし返事が無かったことに些かの落胆を交えて室内へと進入した。

で、無人だったわけだ。

代わりに湯呑が一つだけ、部室中央のテーブル上にインテリアデザインの如く置かれていた。
その中身を覗き込んで見ると、どうやら底のほうに僅かだけのお茶らしき水気が残っている。
さらにテーブル上には水気が拡がっており、それが床にまで滴っていた。

お茶と言えば朝比奈さんだが、一人分だけならば他の誰かが自身で淹れたという可能性も否定はできない。

何故だかわからんが俺はちょっとした推理に興を注いでみようと思い立ち、
先ずは現物を調べるのが常套手段だろうとのことで――

湯呑みを手に取った。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:07:49.35 ID:vFozzCGB0
途端、弱電流に似た衝撃を腕に感じ、伴って世界が暗転した。

それからザザッとホワイトノイズが走ったかと思うと、
使い古された白黒テレビのように不鮮明なビジョンが浮かびあがってきたのだ。

汚く荒れた、朧な映像。
音はノイズの波に掻き消されて伝わってはこない。
だが、そこに居た人物が誰であるのかくらいは見て取れた。

朝比奈さん……?

”俺”の目の前には制服姿の彼女が居た。

俺の目の前?

いや、いや違う。
何が違うのかって、視点が異なっているのだ。
俺は椅子に腰掛けた状態で湯呑みを手に取った。
が、この”視点”からの映像は紛れも無く部室入口扉すぐの位置からの”誰か”によるもの。
或いは、”何か”のもの。

混乱しそうではあるが、俺のものであって他のものであるということらしい。
ややこしいな全く。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:08:54.12 ID:vFozzCGB0
俺は白黒映像の観察を続けていく。
朝比奈さんの行動は単純だった。

部室に一番乗りしていたらしく、誰も居ない室内をゆるりと見渡す。
次いで、思い付いたように部室隅を振り返る。
するとどうやら電気ポットから蒸気が吹き出しているらしい。
なるほど、振り返ったのは予めセットしておいたものが沸き、タイマー音でも鳴った為か。
やがて湯気を立てるそれを急須へ注ぎ、今度は急須から湯呑みへ。
その一つだけの湯呑を盆の上へと載せ、

コトリ。

と音は伝わってこないのだが、テーブル上に湯呑が運ばれたことは分かった。

朝比奈さんは盆をポット横に仕舞うと、淑やかに着席。
お茶を手に取り、物憂げな溜息を吐くように息を吹きかけ……

ている最中に滑り落とした。

テーブルぎりぎりの位置で転げる湯呑み。
跳ねる熱湯。
朝比奈さんは不意の外敵と遭遇した猫のように飛び退き、イスも弾かれて吹っ飛んでいた。

ん?
左手を盛んに振っている。
躱し損ねて浴びちまったのか。
さらにはスカートの裾も若干ながら濡れているらしい。
あの落ち着きようから察するに、奇跡的にも素肌を晒している太股部分には至らなかったようだ。

朝比奈さんは自身の状態を確認すると、徐にスカートに手を当てて脱ぎ――



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:09:55.87 ID:vFozzCGB0
「うお!?」

唐突。
世界に色味と質感が戻って来た。
普段ならば聴き落としてしまいそうな、ざわめく空気も環境音として感じられる。

もう少しでいい所だったのに、畜生。

いやいや、何を考えているのだ俺は。
美の神のプライベートゾーンを覗き見るなんてとんでもないだろ。
だがしかし、あれは覗きではなく幻覚、または白昼夢だったという可能性もある。
つまりは俺が悪いわけじゃあない。
ああ、きっとそうさ。
だからもうちょっとだな……。

「あれ、キョンくん」

のわぁっ!?

「どうしたんですか?」

いきなり扉を開かんで下さいよ朝比奈さん。
俺は今、非情なる葛藤と闘っている最中でして……

「って、どうしたんですか、その左手?」

「え、これですか?」

やや恥ずかしげに目配せた彼女は、氷嚢片手に笑いながら舌を出したのだ。

「火傷しちゃいました、お茶を零しちゃったので」

この瞬間俺は、自身が何かに巻き込まれたのだと悟った。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:10:56.64 ID:vFozzCGB0
それから数分間。
俺は身振り手振りで、あの白黒ビジョンでの内容を伝えていった。
結果。

「どうしてそれを?」

俺の目の前にいるメイド服姿の朝比奈さんが驚きを露わにした。
補足しておくと、これで冒頭部へと繋がった訳である。

「確かにあたしはお茶を汲んで、お盆に載せて運び、テーブルに置いてからその……」

取り落として左手を火傷したと。
彼女の話によると、それから急いで服を着替え、保健室にて氷嚢を貰い、今に至ったとのことだ。
なんにせよ大火傷を負わずによかったってものだね。

「すみません、心配かけちゃったみたいで。
 けど、本当にどうしてわかったんですか?」

「それはその、俺にも良くは分からないのですが……」

端的に状況を説明していく。
ちなみに、あの部分に至る前で映像が途切れたと編集しておいた。
映像編集は曲り形にも経験済みだしな。
そういう遣り取りの末に得られた回答が、

「不思議ですねぇ」

という極めて客観的で、且つ自身が未来人という不思議の筆頭であることを傍と投げ捨てたものだった。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:11:55.53 ID:vFozzCGB0
「やぁ、どうも」

待っていたぜ古泉。
朝比奈さんと二人、接待オセロに華を咲かせながらだけどな。

「なるほど、詳しくお聞かせ願えますか?」

「オーケイ、話が早くて実に助かる」

再びの一人演劇。
キャストは俺。
面白くもなんともないが、二度目ともなれば意識せずとも演技に熱が入るものだ。

「主演男優賞、総嘗めですね」

「ほっとけ」

「すみません、では本題に」

「頼む」

古泉はニヤけを強引に抑えこむと、結論から切り出した。

「憶測に過ぎないのですが、恐らく、過去視、或いはサイコメトリー。
 若しくはそれらに付随するものではないのでしょうか」

過去視、或いはサイコメトリー?
俺は間抜けにも復唱してしまっていた。

「超心理学の分野ではESPなどと呼ばれいるものですね。
 一般世間的には超能力とされるものですよ」


どうやら俺は、一般人ではなくなったらしい。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:12:50.30 ID:vFozzCGB0
その昔、ジェームスさんは言いました。
悪戯に超能力を信じ込んじまうのは、極めて危険なことなのだと。
それが人生を狂わせかねない事態を招くことになるのだと。
全てはカルトなのだと。

だから俺も確証無くしては認めん。
ってこら、何を嬉しそうにしているんだよ古泉。

「すみません、これで僕達も畑は違えど似た者どうしになれるのかなと。
 それから、これだけの異人が集うSOS団内において、懐疑論を唱えるのはナンセンスなものですよ」

「断じてお断りだ。俺は一般人代表なんだからな」

「おや、否定を重ねなくともいいでしょうに。
 それより、まだ喋り足りのですが先へ進んでもよろしいのでしょうか?」

「是非頼む」

「はい、では頼まれましょう」

心底楽しそうだなこいつ。
案外、先の一言には本音が含まれているのだろうか。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:13:33.53 ID:vFozzCGB0
サイコメトリー。
それはモノに残された想いの欠片、”残留思念”を読み解く力です。
詳細な能力は不明で個人差もあるとされますが、
読み解けるモノは物体だけとは限らずに、他者の思考すら解ける者も居るとされています。

まあ厳密に述べるのならば、他者の思考を読み解くのはテレパシーなんですがね。
そうそう、実は僕もこういう能力に憧れていた時期がありまして、訓練の末に習得できないかと日夜……
えっ?
はい、すみません。
調子に乗りました。
では糸目を紡ぎ直すとしましょうか。

貴方の能力についてですが、話を伺った限りではサイコメトリーという分類で間違いないかと僕は考えています。
ただ、そういった超自然的な力が突如として目覚めた場合、
連鎖的に第二第三の何かを引き起こす可能性が十二分に考えられます。
ひょっとすると、既に複合的な何かと混合された状態であるのかもしれませんね。

そう、僕が引っ掛かったのは、朝比奈さんの行動を第三者の視点で覗き見たという現象です。

何故かって?
簡単です、残留思念とは想いの力であるからですよ。
即ち、本来読み解けるのは朝比奈さんが湯呑みに触れていた時に感じていた心境や感情のはずです。
なのに貴方はそれではなく、朝比奈さんに起きた過去の出来事を映像として視ていた。

だから”過去視”と称したほうがより的確なのかと僕は思う訳です。

さて、如何でしょうか?



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:15:09.92 ID:vFozzCGB0
そういう満足気な表情を向けられても困るのだが。

「何分、僕の専門分野なものでしてね」

語り好きであるお前の気持ちも解らんではないさ。
しかし、ここで気になるのは能力的な確証ではなくその意図だ。

「どうして俺に、こんな能力が?」

「一説に依れば、超能力とは誰しもが持ち得ているものだとされています。
 それが他者より優れた五感によってか、
 又は活用できていなかった第六の感覚が鋭利になった事で力として発現したと。
 発現については何らかの外的要素に起因して、あくる日に目覚めることもあるようです」

僕が超能力者となった日のようにね、か。
で、その要因ってのはなんだ?

「例えば、強い残留思念のエネルギーによって、
 貴方の中にあったモノが基底から励起状態へと移行したのかもしれませんね。
 または連日の睡眠不足によって感覚が研ぎ澄まされていった……なんて説もありますが」

にしては、何かしら腑に落ちないが。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:15:41.33 ID:vFozzCGB0

「因果は巡ると言われていますが、貴方にその兆しが現れたことは
 きっと何かの前触れとなるはずです。
 必要とされているからこそ、そこに道が造られるようにね」

なんてこったい……。
これまでも連日に次ぐ不可思議の対応に辟易していたってのに、
今度は俺自身がその主眼に捉えられるとはな。
畜生、頭痛が増してきやがった。

「気に病まれる必要はありませんよ、深くは考えないことです。
 それに、僕達が居るじゃあないですか」

ああ、確かにお前等が居るな。
お前等が、な。
お前等が……?

なんなんだこの違和感は。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:16:43.97 ID:vFozzCGB0
そういえばあいつが居ない。
それにもう一人も。

「ハルヒと長門はどうしたんだ、やけに遅いようだが?」

「えっとぉ、お二人なら先に帰るって言ってましたー」

「え、二人一緒にですか?」

「はい、だから活動のほうは各自に任せると涼宮さんが」

ハルヒと長門?
数百年近く舗装されていない道路並にデコボコな組み合わせじゃないか。
とはいえ、ハルヒが理解不能な行動をとる事はあるにせよ、意味の無い行動をとる事はない。
一体、何を企んでいるってんだ。

「ああ、頭が痛い」

「あのぉ、大丈夫ですかー?」

ありがとうございます朝比奈さん。
貴女の気遣いはあらゆる生薬にも勝る万能薬ですよ。

「風邪気味なんでしょうか、季節の変わり目と雨のせいで気温の変化が激しいみたいですし。
 あたしもちょっとだけ熱っぽい気もしてますし」

「それはいけない、今すぐの御帰宅と御療養を進言させて頂きます」

無邪気に頬を綻ばせる朝比奈さんを横に、古泉が締めくくりに掛かった。

「では、今日は各自解散といきましょうか」

「良案だな、俺も賛成票を投じさせて貰う」

こうして、本日の活動はあっさりと幕を下ろしたのだ。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:17:33.57 ID:vFozzCGB0
部室から正面玄関へ至る道程での、古泉との会話。

「超感覚というだけあって、体質が過敏になっている可能性もあります」

「何が言いたい?」

「あなたの頭痛のことですよ」

「ん……ああ、なるほどな」

「例えばですがアナフィラキシー。要するには薬物過敏症の事ですね。
 普段ならものともしない些細な問題やショックでも、
 今の状態でそれと同じように行えるかは保証できませんからね。
 お早めに帰宅し、ゆっくりと体を休めることをお勧めしますよ」

どうやら古泉なりに気遣ってくれているらしいな。
まあ、男に思いやられても大して嬉しいものでもないが。

「肝に銘じておくよ」

先輩超能力者との会話を通し正体が掴めたことで、幾許かの安心感は得られたわけだしな。

「そうそう、もう一つ付け足しておきましょう」

敢えて注意を惹くかのように古泉が立ち止まった。
とっくに帰宅部は出払ってしまい、玄関側だというのに辺りには人影も無い。
そのような状況下で、いやに落ち着いた口調を以って奴は呟いたのだ。

「すべての事象には意味がある。このことを心に留めておいてください。
 貴方がソレを得たことも。そして今日、僕達がここに居るということも」

では、と片手を挙げられ別れとなった。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:18:32.83 ID:vFozzCGB0
帰宅した俺は日々の習癖に倣って作業を行い、夕食を平らげた。
それから早めの風呂を済ませると、一時の休憩のつもりで居間でテレビを眺めていたのだが。

ふと流れて来たニュースの内容。
それが無性に気に掛かった。

まるで五感の全てを奪われるかのように意識を惹きつけられ、
目を逸らす事が出来なかったのだ。

変だとは思っている。
ああ、俺自身おかしいとは思っているさ。
だが俺はこのニュースを知らなくちゃならない。
何故かまではわからないがな。

口早なキャスターが平坦な声と表情で、原稿通りに読み上げていく。

そのニュースの内容は至って簡素なものだった。
局にとっては数字を稼ぐ駒としても不十分なようで、さらっと流されただけだったしな。
この御時世じゃあ珍しくもなんともないさ。

殺人事件。
犯人は不明。

一言二言で終えられるようなその内容。
不謹慎だが平凡なものだ。
但し、この俺が押し潰される様な嫌な予感に駆られたことと、
その舞台がこの近隣であるという事柄を除けば……

至って平凡なものだ。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:31:55.83 ID:vFozzCGB0
翌日。

「おっはようキョン!」

登校直後の爽やかな空気の中、欠伸片手の俺に太陽のような笑顔が注がれた。
言うまでも無くハルヒ。
それがいやに御機嫌良くリボンを揺らしていらっしゃる。

「どうしたんだ、鬱陶しい顔をして?」

「アンタは口を開くとすぐ皮肉なのね、そんなんだから小物なのよ」

「俺のは挨拶代りみたいなものなんだよ。
 尤も、無機質な脚本に無理やり味を付けた弊害かもしれんがな」

「何言ってるのよ、アンタは補佐で有希のを台本に書き下しているのはあたしでしょ?」

そうやって自慢げに鼻を鳴らされても困る。
全く、こいつのバイタリティには心底呆れるね。

「ところでさ、もしアンタに欲しいモノがあるとしたら何を願う?」

「睡眠」

「もっと現実的に考えなさいよ!」

「やかましい、現実的に考えた結果がそれなんだよ。
 こっちは寝ずの晩で疲れているんだから労わってくれ」

「じゃあ、膝枕でもしてあげようか?」

「断る」

「冗談に決まってるでしょ」

そっぽを向いての無言。
おいおい、急に黙られると不安になるじゃないか。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:33:20.15 ID:vFozzCGB0
現実的なものねぇ。
ハルヒの前で下手に”世界”なんて答えちまうとマジで征服し兼ねない可能性もあるし。
かといって土偶なんて答えて後日、ミラクルパワーによって土偶が降り注いできても困る。

「それなら眠いからコーヒーだな」

「駄目ね。食べ物や飲み物は駄目なのよ」

「どうして?」

「形に残るもので無いとね」

新手の謎掛けか?
まあいい、ならば無難に。

「軍手」

「なんで軍手なの?」

「冬の自転車通学時には使える。これから寒くなるしな」

「それも駄目ね、凶器としては使えそうもないし」

「凶器?」

「こう、なんか身近にあるモノでグイッと出来たら意外じゃないの。リアリティというかさ」

「なぜそれを俺に訊いた?」

「アイディアとは思いがけない所から生まれるものよ。
 生み出そうと頑なになっちゃえばパターン化しちゃうし」

「ならマフラーとかはどうだ? ピアノ線で編めば武器にもなるぜ?」

「それいいわね!」

……正気かハルヒ?

「早速、編み方でも習わないと」

俺は余計なことを口走ってしまったなと早くも後悔していた。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:35:51.84 ID:vFozzCGB0
さて、昨晩からずっと考えていたことではあるが。
そろそろハルヒに云わなければならないだろう。

「おい、やっぱり映画の内容を変えないか?」

「はぁ!? 何言ってんのよアンタ!」

やはりそう来るよな。
しかしこちらにだって理由があるんだ。

「昨日のニュースを見ていないのか?
 巷ではリアルな殺人事件が起こっているらしいじゃないか。
 そんな中で、俺達までこの街を舞台にした連続殺人事件物なんて作ってみろ、
 パッシングの嵐じゃねぇかよ」

「え……事件があったの?」

ハルヒの顔が暗に沈んだ。
しかしすぐさまに強気の姿勢を取り戻すと、

「そんなこと言ったって、去年”朝比奈ミクルの冒険”を創りあげちゃったのよあたし達は。
 だから今年は前年以上のものを創りあげなければならないの。これは大衆から望まれた使命よ。
 その為に去年の失敗を顧みて、今年は早くからの撮影と編集をやっているんじゃないの?」

またまた大それたお考えだね。
と、一年時の俺ならば全否定だろうが、今回に至ってはハルヒの気持ちも解るってものだ。

「お前の主張するところには俺も意を連ねるよ。
 俺だって今まで撮って来たものや、俺自らが血を吐く思いで編集してきたシーン、
 VFXを捨てるのは惜しい。
 だけどだな――」

「だけど、何?
 まさかシーンのみならず、有希が書いた脚本やら古泉君が用意してくれたエキストラ。
 みくるちゃんの長期訓練による上等な演技、キョンの編集と雑用、
 さらにはタイアップの提供者までもを棄てるっていうの?」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:37:36.87 ID:vFozzCGB0
わかっているさ。
ああ、わかっているとも。
お前は自分を加えてはいないが、
お前自身も空いた時間の全てを注いで監督業の勉強をしていたことくらい知っている。
長門の奇怪なシナリオを台本に書き下したり、朝比奈さんに演技指導を加えたり、
エキストラや協力者達に頭を下げたりもな。
実に頑張っていたと思うぜ、本音からそう言えるさ。
きっとお前は、そんな皆の想いを徒為としたくはないのだろうからな。
俺だってそうだ。

だけどな、

「時節柄が悪すぎる。
 わざわざ吹き荒れる大海原にゴムボートで駈けだす馬鹿が何処にいる?」

「それを乗り切ってこそのSOS団でしょ?
 禍転じて福と為せ、これこそがあたし達にピッタリの言葉よ。
 かつての大物達も逆境を撥ね退けてこそ、重鎮として成長できたんだから」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:41:21.92 ID:vFozzCGB0

「そんな事は知るか。俺達は芸能人でも無けりゃ政治家でもない、一介の学生に過ぎないんだよ。
 ただでさえ周りからは奇異の目を向けられ、延いては腫物扱いなんだぞ?
 これ以上の問題を起こせば抗議が殺到するのは請け合い。
 やがては学校側からの処分が下され、SOS団の存続に係わってくることも明白だ」

「だけど……あたしは嫌よ、今さら無駄になんか出来ない!」

畜生、聞き分けのできない奴だな。

「馬鹿かお前は? 団員を率いるリーダーならば、もう少し先見性を持てよ!」

その言葉でハルヒの表情が一変した。
怒りだ。
重みを直に感じる程の威圧。
それを瞳に携えている。

やめてくれよ。
そういう視線を向けるのは。
お門違いというものだろう?

射抜かれるほどに睨め付けられ、俺が恐怖を感じ始めた頃にハルヒはようやく動いた。

「あたしは認めないからね、絶対に。何があってもこの映画を完成させてみせるから」

確かめるような低い唸りを残し、そのまま荒々しく教室から消えて行った。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:44:09.64 ID:vFozzCGB0
俺達が創り上げようとしている映画の内容。
その大筋を語るならば、
犯人がちょっとした行き違いから狂気に塗れ、殺人を行うというもの。
その後も犯行に犯行を重ね、ラストシーンでは銃撃によって死を迎えるとの筋書きだ。

血生臭いったらありゃしない。
けれどもSOS団員達それぞれの試行錯誤の結果、
高校生が創ったにしては、それなりに見れるモノと成ってはきている。

それについては俺が毎夜、撮影と並行した編集作業を行い、何度も見直した結果からも保障する。
少なくとも去年の支離滅裂なストーリーに比べりゃ天と地、月とスッポンというやつだ。

しかしその内容が不幸にも、ニュースで流れた本物の事件によって危うきに立たされているのである。
良識を持っている人間ならば、こんな時と場合では公開を差し控えるものだろう?
被害者となった方への追悼の義は勿論、遺族の方々から怨恨を買うのも極力避けていきたい。

それが真っ当な生き方なはずだ。

だからこそ、この映画はここで終わらせるべきなんだ。
それが正しいはずなんだ。
だけど何故だ?
何故こうも俺は、煮え切らないんだ?
それにこの真綿で首を締められるような不安感は何なんだ?

わからない。
わからない……しかし。

「何も起こらなければいいんだが」

やれやれ、また頭が痛くなってきやがった。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 00:46:26.84 ID:vFozzCGB0
結局、ハルヒは放課後になっても教室へは戻らなかった。
俺はそれに些かの罪悪感を覚えつつ、部室へと向かった。

「入りますよ」

ノックと通例の句を述べ、返事を貰う。

「やぁ、こんにちは」

「どうもぉ」

昨日と同じメンバーか。
それを確認すると不安感に後を押され、口早に二人に訊ねた。

「長門とハルヒは知らないか?」

二人が顔を見合わせ、

「僕は何も」

「あたしも何も聞いていません」

不味い。
何かが不味い。

「何処かで見掛けなかったか?」

「いえ、僕は二人ともとお会いしてはいませんが」

「あたしも同じです」

長門はどうした?
ハルヒが帰ったのならば分かるが、何故に長門までが姿を見せないんだ?



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:12:44.42 ID:vFozzCGB0
「嫌な予感がする」

俺の独り語ちめいた呟きを聞き付けたのか、
古泉が表情を顰めていた。

「具体的にお願いします」

「どうしたんだ?」

「昨日申し上げた通り、あなたは何らかの超感覚を得ている訳です」

「ああ、確かに聞いた」

「ならば今や貴方の予感は、”千里眼”の併発によるものなのかもしれません」

「千里眼?」

「遠く離れた出来事を感じ取る力ではありますが、これもやはり詳細は不明。
 ですがその情景が”予感”という不確かなモノとして貴方のもとへと届けられている
 可能性があります。
 どちらにせよ、感覚が尖った状態である貴方の情報は、
 幾分かの真実を含んでいるのかもしれません」

とどのつまり、今俺がやるべきことはそれを説明しろと。

「では、お願いします。”何について違和感があったのか”を極力具体的に」

朝比奈さんがお茶を運んでくれたことにより、
俺達三人はSOS団から超常現象対策本部へと移行した。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:13:46.85 ID:vFozzCGB0

「そういえば昨日からだ。ハルヒと長門が居ないことに俺は先ず違和感を覚えていた」

記憶を探れ。
思い出せ。

「それから帰宅し、夕食後のテレビを見て……その内容にいやに惹きつけられた」

「その時の心境は?」

心なしか古泉に焦りの色が表れているような。
朝比奈さんも神妙な面持ちで耳を傾けている。
いや、そんなことはどうだっていい。

「その時、俺は……とてつもなく嫌な予感に駆られていたはずだ」

「具体的に。どのような形の嫌な予感ですか?」

「わからん。漠然としすぎていて何もわからない」

「では、次へ」

「その次は今日だ。ハルヒに事件のことで自主制作映画の中止を訴えたのだが断られた。
 ハルヒは”絶対に完成させる”と言い残し教室から消え、それから俺は映画について考え、
 またも不安に襲われた直後、こう考えた」


――何も起こらなければいいんだが


そこまで話し終えた途端、古泉が立ちあがった。

「急ぎましょう、長門さんの自宅へ」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:23:44.38 ID:vFozzCGB0
夕刻、まだ十分に陽がある時間帯。
頻りに携帯電話を弄っている古泉を先頭に、俺達は公道を早いペースで歩いていた。

「朝比奈さん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫、です」

言葉とは裏腹に若干息を切らせている。
無理もない、一般的な女性である彼女が男の歩幅に合わせるのは辛いものがあるだろう。
しかし気遣ってペースを落とす余裕が俺にはない。
それだけに心が逸ってしまうのだ。
先陣を切る古泉にしたって同様だと背中越しに伝わってくる。

「なあ古泉、なぜ長門なんだ?」

古泉は振り返ると同時、指を立てて説明を始めた。

「第一の違和感の時点で居なかったのは涼宮さんと長門さん。
 第二の違和感の時点で”殺人事件”について貴方が惹き付けられた。
 そして第三の違和感で、”何も起こらなければいいんだが”とのメッセージを受けた。
 第三の違和感は、裏を返せば”何かが起こるから、それが起こらないように願った”とも解せます」

こちらの理解を窺うように古泉が間をおいた。
……よし、大体は把握した、続けてくれ。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:35:57.83 ID:vFozzCGB0

「繰り返しになりますが、全ての事象には意味があるんです。
 貴方が超感覚を得たのも、違和感を受け取ってしまうのも、そしてそれら以外の全てにもです」

そんなこと俺には解らない。

「続けます。
 つまり第一の時点で涼宮さん、或いは長門さんに絞られ、
 第二の時点でそこに殺人事件というキーワードが加わり、
 第三の時点で何かが起こるという要素が足された」

じゃあ、まさか……。

「その通り。涼宮さんか長門さんのどちらかが事件に巻き込まれている可能性が高いと考えます。
 そして昨日の時点で貴方は違和感を感じており、且つ長門さんと接触していない。
 さらに今日も涼宮さんと相対している時ではなく、それら以外について違和感を覚えていた。
 そうでなくとも長門さんが我々への連絡も無しに姿を見せないことは常態ならば考えられません。
 何故ならば今現在我々は――」

そうだ、俺達は今現在、自主制作映画の撮影を行っているのだ。
だからこそ団長様の意向に叛くような行動を採れる筈もない。
昨日と今日はハルヒが不在だった為に撮影こそ行われなかったが、
それまでは連日のように撮影が続き、そして俺は毎夜の編集に追われているのだから。

待て。
それじゃあまるで長門が……。
そこまで考えた時、古泉が決定打ともなる一言を放った。

「そもそもですね、繋がらないんですよ。何度も長門さんと連絡を取ろうとしているのに、
 何故なのか繋がらないんです」

携帯をぶらりと揺らしながらの、苦々しい半笑いだった。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:47:58.45 ID:vFozzCGB0
街を圧迫するかのような高級分譲マンション。
女子高生が一人で住むには明らかなオーバースペック。
それを前にし、見上げる形で俺達は佇んでいた。

「いつみても豪華なんですねぇ」

朝比奈さんの意見には一片の過ちもないが、
今はそれに相槌を打っている暇すらも惜しい。

「どうやって入るんだ?
 以前俺が訪れた時、パスコードが無ければ扉が開かなかった筈だ」

またあの時のように他人の通過を待って割り込むか、
などと思案していた矢先、古泉が真顔のまま切り出した。

「僕なら入れます、彼女とは協力関係にあったために認証も知り得ているので」

なるほど、それは心強い。
程無くして開いたガラス戸を抜け、俺達はエレベーターで七階を目指した。

708号室。
長門はそこを住いとしている。

頼む。
無事でいてくれ。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 01:58:09.50 ID:vFozzCGB0
「空きませんしインターホンを押しても反応がありません。恐らく不在のようです」

長門の部屋前まで来たとき、俺はある種の”予感”がした。
何かがある。
いや、”この扉に”何かがある。

「どうしたんですか、キョンくん」

すみません朝比奈さん。
今は無視してしまうことをお許しください。

誘われるように一歩前へ。

扉。
違う。

覗き穴。
違う。

ドアノブ。
ドアノブ・……?

見つけた。
ここだ、ここに何かがある。

「古泉、少しの間、俺を支えていてくれ」

古泉が了解するよりも早く――

俺はドアノブに触れた。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:00:02.63 ID:vFozzCGB0
ザザッ。

ザァー……

ホワイトノイズ。
音が掻き消された白黒の世界。
砂嵐。
その奥の朧なビジョン。

目を凝らす。
僅かだが時間と共に乱れが引き、徐々に視野が拡がっていく。

視えた。

扉は開いていた。
708と書かれていることから間違いなくこの場所であることが窺える。

細い廊下の奥、空いた部屋に誰かが居た。
ショートカットで小柄な女子制服姿。

遠い。
顔が見えない。

しかし姿形、そして場所から察するに長門である可能性が高い。

数秒後。
その人物がこちらへと歩み寄って来た。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:07:12.63 ID:vFozzCGB0
やはりそうだ。

『長門!』

声が出ない。
いや、これが過去視だと仮定すれば伝わらないはずだ。
なんとももどかしい。

長門は扉すぐの玄関上から、一度だけ背後の部屋を見返した。
胸には分厚い本が抱えられている。
さらに、その握りを確かめるように抱え直す。

それからこちらへと向き直ると……

ん、なんだ?
今、なんと言った?

まどろっこしいな全く。
このホワイトノイズさえ無ければ。

やがて長門は、ゆるやかな動作で靴に履き替えると――



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:14:53.52 ID:vFozzCGB0
「痛ぇ!」

頭痛だ。
それと共に視界が戻り、世界が音と色で描きあげられていった。

「大丈夫ですか?」

「問題無い、気にしないでくれ」

「しかし痛いと――」

「いいから、気にするな!」

ハッとした時には、押し殺すように声を絞り出した後だった。
大丈夫。
痛くない。
痛くないから落ち着け、俺。

そんなことより長門だ。
俺は古泉と朝比奈さんの両名へ、映像の内容を伝えていく。

「なるほど、分厚い本ですか」

古泉に続き、

「制服姿ということは、帰宅直後でしょうか?」

朝比奈さんも考えを述べた。

そして一拍を置いての結論。


「図書館」


三人の言葉が見事に重なり合った。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:28:05.51 ID:vFozzCGB0
駆けるようにマンションを飛び出す。
あの映像の中で見た本。
分厚く、いつかの光景にあるSF関連のモノに近い。

そうだ、昔立ち寄った図書館で長門が目にしていたアレに限りなく近い。

「待ってくださぁーい!」

しまった、朝比奈さんのことを忘れていた。

「はぁ、はぁ……すみませぇーん……」

今更にして気が付いた。
古泉が朝比奈さんの鞄を受け持っていることに。
なんてこった、男として当然の気配りすら出来ないとは。
それほどまでに俺は焦っているのか。
自身の感情を汲み取れないほどに。
なんとか落ち着かなければ。

「あの、本当に大丈夫ですか?」

深呼吸をしているところで古泉に声を掛けられた。

「なんともないぜ」

「そうは思えません。
 度々口にしてはいますが、超感覚とは尖り切った感覚が齎すというのが通説です。
 例えるならば、猫は暗闇の中でさえ見通せるほどに視力が良いという”利”を持っています。
 しかしその実、暗闇の中でカメラのフラッシュを炊かれれば忽ち視界は奪われ、
 場合によっては失明にまで至ります」

――利は、不利と表裏一体なのですよ。だからこそ、細心の注意を払うようにしてください。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:38:48.02 ID:vFozzCGB0
図書館。
一たび境界を跨げば、中は静寂そのもの。
と踏んでいたのが、

「ノイズが聴こえる」

「ノイズ?」

朝比奈さんが困惑したかのように首を捻っている。

「古泉はどうだ、聴こえないか?」

「いえ、何も」

「くそっ、幻聴か」

「煩い場所から静かすぎる場所へ来た弊害でしょう、気にし過ぎない事です」

サンキュー。
お前が居てくれて本当に助かるよ。
未知の出来事ですら、それなりの解説を付けて貰えれば輪郭が現れてくる気がするからな。

「キョンくん、少し休んでいたらどう?」

「そうですね、僕達で手掛かりは探しますので」

駄目だ。視れるのは俺だけなんだから。
俺がやらなきゃ誰がやる?

「それは違うと思います」

「ええ、朝比奈さんの言う通りです。
 貴方は明らかに精神をすり減らし続けています。
 視るのは貴方しか出来ない、だからこそ余計な消耗は避けるべきです」

……すまない。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 02:49:48.07 ID:vFozzCGB0
近場の椅子に腰を落ち着けた。
遠くでは朝比奈さん達が職員相手に問答を繰り返している。

古泉の手短な説明によると、
”長門有希”の名前を職員へと訊ねて情報と”分厚い本”を聞き出す腹積もりらしい。
それらから長門がここへと来た正確な時間を割り出すとのことだ。

そう、時間なのだ。
正に盲点だった。
俺は過去を視る事が出来ても、その時間までもを正確に知ることはできない。
視界内に時計があれば別だが、白黒世界で任意に視点を動かす事は叶わないのだ。
さらには白黒である為に光加減が解り辛い。
加えて長門の件で学んだ通り、僅か数メートル離れれば顔すら見えないのだから
風景から察するのも困難。
すっぱりと時間さえ分かれば、聞き込みの効率もぐっと上がるのに。

が、仕様がない。
無い物を強請った所で事態の進展など見られる筈もないからな。
やれるだけのことをやって、後は仲間と共に地道に補うしか無い。

最初こそ望はしなかったものの、俺はこの超能力を手に入れた。
それは今まで任せっきりだった皆と同等の立場へ立てたことを意味している。
ましてや、今現在は長門の影を追っている最中。

今までの恩を、まとめて返してやる。

だから、解き明かす。
この俺が。
絶対に。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:19:51.52 ID:vFozzCGB0
古泉が戻って来た。

「現在時刻が17時30分。
 そして長門さんがここを訊ねられたのが18時前後のようです」

「ちょっと待て、未来なのか?」

「あっ、すみません。18時というのは前日のものですね」

「やっぱり、俺には正確な時間がわからないのか」

「それから――」

やや遅れて帰ってきた朝比奈さんが古泉を遮り、本を抱えたままで口を開いた。

「あの、これ……一応お借りしてきましたけどその……」

黒塗りのカバーに金の題字。
題名はどこか別の国の言葉であるらしく読めないが、それはこの際関係はないだろう。

俺はそれに触れずにじっくりと観察した。
長門が抱き抱えていたのだ、きっと思念が隠されているはず。
ならば重要な情報が得られてもおかしくはない。

けれども俺の願いに反して、何も伝わってはこない。

「朝比奈さん、ちょっといいですか」

念の為に触れてみる。
視れない。
駄目だ、これには思念が宿っていないのか?



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:31:22.09 ID:vFozzCGB0
「不味い、手詰まりなのかもしれない」

俺は敗色濃厚に息を吐いた。
いや、まだ何かが……。

「いえ、御心配無く」

そこで再び言をとったのは古泉だった。

「行先は解っています、職員の方から伺いました」

「職員だって?」

「ええ、長門さんの心境は不明ですが彼女が図書館を頻繁に利用していたことは事実です。
 そこで職員の方は常日頃から長門さんに言葉を掛けるようにしていたとのことでして、
 前日も二言三言だけではありますが会話を交わしたと」

「で、どうなんだ」

「神社へ行く、などと漏らしていたらしいのですが」

「神社? 何処のだ?」

「いとう神社」

聞き覚えがない。
というより、初詣すら事欠く俺が、神社の名前なぞいちいち把握している訳もない。

「場所は解っています、ここは図書館ですからね」

そういって古泉は、地図をヒラつかせて見せた。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:42:26.98 ID:vFozzCGB0
思いのほか離れた位置にあった為に、
俺達はタクシーを捕まえて移動する羽目となった。
ちなみに、代金は古泉が持つとのことだ。

長門、お前は何処に居るんだ?

俺はシートに背を預け、窓の外の風景を眺めていた。
流れの多い駅前から離れた途端、すれ違う人の数も極端に減っていく。
所謂、閑静な住宅街にあたる位置を走り抜けている訳だ。

「長門さんは、神社なんかに何の用があったんでしょうか?」

朝比奈さんの言葉は尤もだ。
長門のライフスタイルは俺にとっても未知ではあるが、
その長門が習慣にように、わざわざ離れた位置へと赴くとは考え難い。
つまり、何らかの用事があったと推測できる。

その用事が掴めれば或いは、真実が見えそうなのだが。

とにかく、目的地はもう眼と鼻の先だ。
それで分かる。
きっと、長門はそこに居る。

きっとだ。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 03:56:27.71 ID:vFozzCGB0

「17時50分。タクシーを捕まえていた時間を差し引けば約10分程度の距離ですね」

タクシーを降りるなり、古泉が計っていた。

「歩けないこともないが、少々遠いな」

「あたしだと、歩きでは30分程度でしょうか」

口々に残し、見上げた。
そうなのだ、またも俺達は見上げたのだ。
どうして神社ってのは、こうも小高い丘の上にあるのかね。
しかも辺りには住宅が窺えるものの、このちょっとした森に囲まれた位置では視界が利きそうもない。
恐らく、上に登ればそれがより躊躇となるだろう。

「僕が思うに長門さんはあの後、徒歩で移動したはずです。
 つまり彼女が寄り道なしで此処へと来ていた場合、その時刻は18時30分前後となります」

この季節ならば、夕陽も沈むころか。
さらには夕食時。
ますます人気も掃けるというものだ。

人気ない場所、か。
だが考えていたって埒が明かない。

「行こう」

俺は意を決っし、先陣を切って階段に足を掛けた。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:18:51.07 ID:vFozzCGB0
あった。
見つけた。
この境内の何処かから感じる。

逸る心を抑え、念の為に辺りを見回す。
子供でさえ野球をするのは不可能なくらいの狭いスペース。
そこにぽつりと忘れられたように有る本殿。
手水舎も社務所も無い、寂しげで簡素な創り。

その唯一の建物である本殿に至っても、日に焼けた木造が痛々しく床板は抜けそうだ。
腐食した大鈴に垂れさがるような叶緒。
その下には申し訳程度の賽銭箱が鎮座している。

「どうでしょうかぁ?」

朝比奈さんも陰鬱な空気に気圧されたのか不安げに首を振っている。

何処だ、何処からだ……

惹かれるように歩いて行く。
いや、歩かされていると表現した方が正しいのかもしれない。

こっちだ。本殿の裏側。
階段側からは完璧に死角となり、辺りは森で囲まれた場所に位置する一点。
そこに至る本殿の角。

「見つけた」

俺はそれだけを伝え――

そこに触れた。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 04:28:16.27 ID:vFozzCGB0
いつもの前兆が現れた。
視界の暗転、雑音、白黒。
焦点以外が限りなく不鮮明な映像。

俺は落ち着き、ただ待っていた。
やがて視界が晴れた先にあったのは……

やはりこの場所だ。

居た。
長門だ。
目の前に立って居る。

しかし何故、このような場所に一人で居るんだ?
それに”俺”と視線が搗ち合っているのは単なる思い過ごしだろうか。

ん?
今、また何かを言ったような?

ノイズが煩い、全く聴き取れない。
だが良かった。
長門は居る、手掛かりを残しながらちゃんと居てくれている。

俺がそう考えた瞬目のあとだった。
視点が”動いた”のだ。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 05:06:21.01 ID:vFozzCGB0
すっと、長門が視界の右端に流れて消えた。
”俺”は左を向いたのか。
と思いきや、すぐに長門を捉えなおした。

長門はこちらに横顔を向けていた。
察するに、俺が見た方向へとつられたのだろう。

何やっているんだよ長門。
お前らしくもない。

長門が平坦な動作でこちらへと向き直る。
その喉にナイフが突き刺さっていた。

……え?

違う、右手が映っている。
これは?

なっ、まさか”この視点”の正体は!?

右手がソレを引き抜いた。
溢れるように黒の液体が飛び散り、長門は喉元を押さえながら体をくの字に折っている。

俺は見降ろした。
長門を。
その後ろ首に焦点を当て――

全体重を掛けるようにしてナイフを刺し込んだ。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 05:09:53.36 ID:vFozzCGB0
長門が痙攣している。
そんな馬鹿な。
これじゃあまるで長門が……

視点が下がった。
しゃがんだ?
待て、何をする気だ一体!?

ナイフ。
黒色に塗れたそれを長門の裏首に当て、鼻の方向へと貫通させるように刺し込んでいる。
ヌルリヌルリと埋まっていくその様。
映像越しに嫌な手応えを感じてしまう。
やがては柄近くの位置まで埋まりきり、飛び出した骨のように生えていた。

最早、俺は声も出なかった。

ただ気持ち悪い。
荒れた映像、音の無い映像、なのにまるで俺自身が行っているかのように錯覚しかけてしまう。
そんな様子を呆然と眺めていた。

俺がトドメを刺し、長門が動かなくなるその時まで。

最早、抜け柄と化した長門を俺は強引に掴んで引きずった。
低い視点のまま引き摺っている。
暗がりに引き摺って――



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 05:12:04.10 ID:vFozzCGB0
「うっ……」

戻った。今へと、俺は帰ってきた。
吐くな、堪えろ。今はそんな場合ではない。

すぐさま足元の落ち葉を払った。
染みがあった。
紅い紅い、水たまりが。

古泉と朝比奈さんが驚愕と共に一歩飛び退いた。

俺は屈んだ。
覗く為だ。本殿の床下を。

暗い。
陽が傾いているのも要因だ。
しかし、やはりあった。

予想通りのものがそこにはあった。

盛り上がったように積まれた落ち葉。
不自然に固められた場所が。

頭を打ちながら縋り寄る。
盛りあがるように集められた落ち葉を払う。

ようやくにして見つけた。
ああ、しかし遅かった。

二度と動くことのないモノへと変わり果てた長門が、そこに居た。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 18:31:51.88 ID:vFozzCGB0
長門の亡骸を発見してから一時間。
辺りには通報によって駆け付けた警官たちによって、ブルーシートが掛けられていた。
その際に事情を尋ねられ、『友人の行方が知れなかった為に探していた所、発見した』と答え、
俺達は境内の隅に腰掛けて”現場”と成り果てていく様を眺めていた。

現在時刻は19時。

隣では朝比奈さんが顔を覆い、静かに泣いている。
古泉も俯き、黙考と黙祷が入り混じった表情で固まっている。
そして俺も、呆けたように座り込んでいるだけだ。

未だに信じられない。
本当に、長門は殺されたのだろうか。

「間違いありませんよ。脈も呼吸も心音も顔色も、いえ、それ以前に体温が無かったんです。
 誰が見ても死んでいると分かるような状態でした。
 刑事の方には簡易的な段階だと前置きされましたが、
 死亡推定時刻はやはり前日の18時30分〜19時前後。
 明らかに貴方の視た光景が殺害の瞬間です」

具体的な時刻などを挙げられ、それによって現実感が増したことで、
俺も堪え切れずに涙が溢れてしまった。

「昨日の段階で、俺が長門の所在を確かめておくべきだった」

「それは、不可能というものですよ」

古泉の言葉は、またも現実であるということを肯定していた。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 18:46:27.88 ID:vFozzCGB0
「つかぬ事を御聞きしますが」

古泉が神妙に切り出した。

「貴方は前日、僕と別れた後にどのような行動をとられましたか?
 出来るだけ具体的にお願いします」

なんだ?
こいつは俺に何を聞きたいんだ?
いや、しかし手掛かりになるのかもしれないのならば或いは。

確か、部室へ顔を出したのが放課直後の16時10分。
そこで俺、古泉、朝比奈さんが会話を終えて別れたのが17時前後。
古泉とは朝比奈さんより数分間だけ長く一緒にいて、それから、

「帰宅したのが大目に見積もっても17時30分前。
 その後はいつも通り映画の編集作業を行い、夕食を口にしたのが19時45分頃か。
 あとは風呂に入って事件のニュースを見て、夜からまたも編集作業を続けていた」

「編集作業はどのようににして?」

「ハルヒがタイアップしてきたノートパソコンを用いて俺の自室で」

「それを証明出来る方は?」

「証明って……お前」

まさかこいつ。

「気を悪くされないでください。念の為、にですよ」

念の為、により一層の力が込められていたことに対し、俺は居心地の悪さを感じていた。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 19:02:27.33 ID:vFozzCGB0
証明出来る人物。

「帰宅直後に関しては居ないな」

「どうして?」

「両親が帰ってはおらず、妹は自室か他の部屋に居た。加えて、俺は妹と会話をしていない。
 編集作業中に妹がちょっかいを出してくることが多かった為に、自室での編集中には鍵を掛けていたからな」

「では、夕食後は?」

「夕食は家族と食べ、入浴後は居間で妹と共にニュースを見たりしていたから証明してくれるはずだ。
 まあ、その後はまたも編集に没頭していた為に寝不足な訳だが」

「そうですか、ありがとうございます」

古泉は一旦、情報を頭脳に刻みこむように黙ると、
今度は朝比奈さんに向き直っていた。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 19:05:18.93 ID:vFozzCGB0
「朝比奈さん、お願いします」

「ふぇ……?」

おい、ちょっと待て古泉。
まさか朝比奈さんまで疑う気じゃないだろうな?
朝比奈さんは泣いているんだぞ?

「泣いているからどうだ、というのは現段階において何の判断価値もありません。
 いいですか、よく考えてもみてください。
 長門さんが殺害されたのですよ?
 それもこのような明らかに誰かが誘い込んだというような場所で、です。
 聡い貴方ならば僕が云わんとしていることがお判りでしょう?」

長門は警戒していなかった。
さらに酷ではあるが、長門の交友関係はそれほど広くない。
つまりは顔見知りによる犯行の可能性が高い、ってか。
それも……古泉の態度から察するに、奴はSOS団内部を疑ってやがる。

畜生。
心底、反吐が出る。

「早合点しないでください。
 我々のアリバイを明白にすることで、可能性を潰そうと考えているのですから」

ああ、そうかい。
モノは云いようだな。

だったら何故、お前はそうも疑り深い顔をしているんだ?



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 19:19:44.25 ID:vFozzCGB0
「では朝比奈さん、伺わせてください」

「はい……」

朝比奈さんは考え込み、深呼吸を幾度か重ねてから本題に入った。

「あたしは17時にキョンくん達と別れて、そのまま歩いて帰りました。
 その途中でスーパーに寄って夕食の材料を買い揃えて、家に着いたのが18時くらいでしょうか。
 あとはずっと家に居ましたけど……」

「それを証明出来る方は?」

「……」

以前、耳にした事がある。
朝比奈さんは諸事情により一人暮らしなのだと。
それも何故か、住宅街に佇む普通の一軒家にだ。
そうともなれば証明出来る人間なんていない。

「わかりました、では途中で誰かと接触等はされましたか?」

「いえ、誰も」

「電話などは?」

「いえ、何も……」

どんどん声が凋んでいき、涙声へと至り、
やがては俯いて泣き出してしまった。

「すみません」

「いえっ……いいんですっ……」

古泉がふっと溜息を吐く。

「では、最後に僕ですね」



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 19:39:39.13 ID:vFozzCGB0
「僕は御存知の通り、普通の男子高校生です。
 尤も四年前のあの日までは、ですがね。何れにせよ家族も居ます。
 僕は皆さんと別れた後、自転車を用いて駅前近くの本屋へと向かいました。
 到着したのが大体、17時15分前後でしょうか?
 そのまま30分程度の品定めを行ったあとミステリ小説を2冊購入し、
 その後は当ても無く街をブラブラしていました。
 帰宅したのが大体、19時15分辺りだったかと記憶しています」

「それを証明出来る奴は居るのか?」

俺は先程の仕返しとばかりに、少しばかりの皮肉を込めて訊ねる。
古泉は苦笑いのあとに答えた。

「帰宅直後、僕は母親へ挨拶をしました。
 それがその時間の証明ともなりえるでしょうが……」

「街でブラブラしていた時間を用いて殺害と帰宅が可能、か?」

「ええ、自転車を用いて最短経路を通れば、駅からこの神社までは15〜20分程度でしょうね。
 僕の家までも同程度の時間を要せば十分でしょうし」

「ということはなんだ、とどのつまり」

「そういうことでしょうね」

俺達三人は結論を口には出さなかった。
しかしそれが却って場の雰囲気を嫌な方向へ引き立てている。

仕方のないことだが。
俺達は互いに無実を証明できそうにはなかったのだから。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 19:56:00.33 ID:vFozzCGB0

「君達、今日はもう遅いよ。そろそろ帰りたまえ。
 どれ、私の車で送ってあげようか?」

刑事の一人が話掛けて来た。
俺の親父と同年齢程度で、見るからに人の良さそうな雰囲気を携えている。

俺は古泉を見た。
お任せします、という塩梅。
朝比奈さんも同様だ。

ならば決まりか。

「すみません、お言葉に甘えさせて頂きます」

「わかった、では下まで降りるとしよう」

重い腰を上げて、暗く陰鬱な夜冷えを見せ始めた神社を突っ切って行く。
長い石階段の上からは街が一望できるようになっており、
夜の灯りが明滅している情景は、こんな場合でさえなければきっと温かみのあるものだった筈だ。

それにしても分からない。
長門が殺されなければならない理由がだ。

誰かの怨みでも買っていたのか?

そうだとしても俺が知り得る手段はないか。
畜生。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 20:06:49.60 ID:vFozzCGB0
「何と言っていいのか分からないけど……」

唐突に、刑事が口を開いた。

「残念だったとしか言えない。君達もさぞかし不幸だとは思う。
 けれどもあまり思い詰めずに、彼女の分まで生きてやってくれ。
 犯人は、私達が絶対に探し出してみせるからね」

包容力に優れた温かみのある声。
やはり実直な人なのだと確信した。

「それから極力、夜は出歩かないようにな。
 こんな御時世じゃあ君達が次の……ゴホンッ、失礼」

次の犠牲者になり兼ねない、と言おうとしたのだろうな。
ん、ということは。

「まさか、巷での殺人事件との関連が?」

「え? ああ、鋭いな。
 断定はできないが、手口が似ていることから恐らく同一犯と見ていいのかもな。
 重ねるが、断定は出来ていない」

どうなっているのだ一体。
嫌な予感がしてならない。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 20:19:18.87 ID:vFozzCGB0
「では、気を付けてな」

「ありがとうございました」

覆面パトカーで自宅前まで送って貰い、
最後の搭乗者であった俺は刑事に頭を下げてから自室の敷居を跨いだ。

「ただいまー」

「あ、キョンくんおかえりっ」

すぐに居間から飛び出してきたのは無邪気な妹だった。
最近は編集に追われ構ってやれていないから、
隙さえ見つければ飛びついてくるようになっているらしい。

壁掛け時計を確認。
もう20時か。

既に夕食を終えたのか流し台に立って洗い物をしていた母親に帰宅を告げ、
それから夕食を摂った。

美味しくない。
母親には悪いが、腹が減っていても味を噛み締める余裕すら出てこなかった。
ただ単純に腹を満たせれば今はそれでもいい。

隣では妹が学校での出来事を止め処なく語っている。

とても嬉しそうにしているその顔を眺めていると、
羨ましくもあり、同時に憎くも思えてしまった。

疲れているな、俺。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 20:34:18.54 ID:vFozzCGB0
夕食後に入浴を済ませ、妹の話に機械的な相槌を打っているうちに早くも22時。
俺は前日に倣ってニュースを眺めることにした。

『また、殺人事件が発生――』

情報が早い。
流石に2件連続ともなれば格が変わるのか。
昨日は投げ遣りに扱っていたくせに、ここぞとばかりに食い物にしやがって。

俺の心境を逆撫でするように、偉ぶったコメンテーターが御登場なすった。

関連性がどうだとか、最近の世の中はどうだとか、
そんな当たり障りのない常套句でふんだんに話だけが引き伸ばされたものの、
子供用ビール並に希釈された番組内容からは何も得られるものなどなかった。

はぁ、参りそうだぜ全く。

「キョンくん駄目だよ、溜息は幸せが逃げてくんだから」

「現状で十二分に幸せだから逃がしてやってんのさ。頭に否定詞が付いた幸せだけどな」

「よくわかんないお?」

「じゃあ、俺は編集やるから邪魔するなよ」

「えー……」

「渋るな」

「うん、わかった」

俺は自室へと戻った。



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 20:39:06.02 ID:A8lnuEn80
これは面白い

しかし妹まさかのVIPPER?


113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 20:46:04.95 ID:vFozzCGB0
レンズの向こう側に長門が居た。
ぎこちない動作で、ぎこちない演技で、ぎこちない台詞を口にしている。

まだ映画の最初の方のシーン。
この頃は台本もマトモに出来上がってはおらず、
日常シーンに使えるだろうとの事で俺達SOS団そのままの活動を撮り収めてあったのだ。

長門は自身の演技がぎこちないことを気にしてか、
自分なりの練習を部室にて繰り返していた。
それぞれの団員はその様子に気が付かないように、
各自ボードゲームに勤しんだり、お茶を啜ったり、腕組みしたりしている。

ちなみにこの場面でのカメラマンは俺だ。
今作は全員が主人公として登場する為に、交代制だからな。

しかし長門よ。
劇中で台本を拡げんなよな。
ハハッ……。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 21:01:05.72 ID:vFozzCGB0
俺は編集する気すら失せ、デジタルデータな思い出を見返していた。

手振れるカメラ。
真剣な筈のシーンで笑う俺。
台本に無いアドリブを好き勝手織り交ぜる古泉。
仁王立ちしたままカメラに映り込む、超監督ハルヒ。
キョロキョロとカンペを探しているのがバレバレな朝比奈さん。
そして、やはりぎこちない長門。

日中は撮影、帰宅後はそれぞれの仕事で寝る間も無い程に大変な日々。
現在でもそれは変わらないが、今にして思えばこの頃のことが懐かしくて堪らない。
俺はただ愚痴ばかり述べていた筈なのに。

シーンが次々と流れていく。
取り留めのないような繋ぎを経て、まだ荒い編集しか済ませていないモノが上映されていく。

やがて、あるシーンまで到達した。
劇中における”長門有希”が、殺害される場面だ。

とはいっても、これは練習シーンなので本番はまだ撮られていないのだが。
そこでの仮初の犯人役は俺。
一番悪人面をしているから、というハルヒからの達しがあったと記憶している。

ともかく、俺と長門。
その二人が人気の無い公園にて対峙していた。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 21:22:00.10 ID:vFozzCGB0
「往生せいやー」

やる気のなさそうな俺の台詞に次ぎ、歩くような走るような速度で距離を詰める。
右手にはナイフ。
もちろん、これはおもちゃなので刺せばモグラのように引っ込む。

長門が一歩だけ引く。

場面転換し、俺が長門の首にナイフを突き刺す。
ように見せ掛けて、実際は俺の背中が映っており、その場面は見えてはいない。
間近にあるカメラで移せばナイフがおもちゃだと一目瞭然だしな。
まあ、この辺の誤魔化し方は去年の”朝比奈ミクルの冒険”の時に学んだことの一つでもある。

やがて長門が倒れる。

そこで監督さんの声が掛かって、俺が長門を抱き起こしていた。
ハルヒがいちゃもんを付けている。
俺に言うなよな、俺は代役なんだからさ。

代役なんだから……?

思えば奇妙なことではある。
この映画は、連続殺人事件をメインテーマに添えているくせに殺害シーンは唯の一片すらも撮られていないのだ。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:26:45.41 ID:yg6rPY0HO
しかしキョンの演技やる気ねーw


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/07(火) 21:28:01.70 ID:vFozzCGB0
ハルヒに由れば、
『犯人は日常で生じた思い違いが原因で殺人鬼と化すのだから、
殺害シーンまでは役者にすら犯人役であることを知らせない』
だったはずだ。

俺が若干の加味を施した台本についても、犯人のシーンなどは一切記述されてはいなかった。
それを周知しているのは原作を書き上げた長門と、それを台本に書き下したハルヒだけ。
だが、長門が被害者役であるということは、
近いシーンで長門が殺害されるのが確定していたことになる。

まさか、バチが当たったのだろうか?

このような情勢の中で事件物なんてもんを創っていた俺達に。
だから映画の中で殺害されるシーンを演じた長門が、実際に殺されてしまった。

……まさかな。映画じゃあるまいし。

しかし何故だか気に掛かるのは、長門が書き上げたその原作が何処にあるかなのだ。
関連性はない。
そう思おうとするのだが、やはり先の考えが頭の中をチラついて離れない。

もし、これが万が一にも事件と関連しているのならば。
次の犠牲者が、そこに記載されている可能性もあるのだから。

いや、考えすぎだよな。

俺はそう結論付け、精神をすり減らした為か終始ズキズキと痛む頭を押さえ、
その後も懐かしい映像のなかに浸っていた。



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 00:09:10.61 ID:v9J8Gv4U0
翌日。
寝ずの晩でふら付く頭を叩きながら俺は登校した。

教室へ入ると途端に活気ある喧騒に包まれる。
それらを尻目にハルヒの席を窺ったが、ホームルーム直前だというのに席は空いていた。
まだ来ていないだけなのか。
だが、いつも俺を迎える側であるあいつが遅刻などするはずもない。
ということは顔を見せない可能性のほうが高いことになる。

一体、何をやっているんだハルヒは。
長門の件で訊きたいことがあるってのに。

やがて担任が姿を見せ、
日常ムードを満喫しているクラスメイト達を横目に俺は外を眺めつづけた。



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 08:17:37.79 ID:Nn3SB5umO
全校集会とかはないんだなー


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 00:19:26.15 ID:v9J8Gv4U0
長く退屈な授業も終わり放課となったが、
やはりハルヒは姿を現さなかった。
昨日、俺が提案した映画に関する改変が癪に障ったのだろうか。
それとも、あまり考えたくはないが長門の件で何かが……。

いや待て。
まさかとは思うが、ハルヒは既に……。

違う違う。
長門が殺害されたのは偶々なんだ。
不幸な事故だったんだ。

ハルヒは関係ない。
俺達SOS団員も関係ない。
よって次の犠牲者が出ることも無い。
犯人はもう捕まる。
あの刑事が捕まえてくれるはずだ。

よし、考えすぎるのは良くない。
先ずは部室にでも行こう。



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 00:30:54.68 ID:v9J8Gv4U0
ノックと返答。
よって入室。

「こんにちは」

開口一番に定句を述べた。

「やぁ、どうも」

「どうもぉ」

予想通りというべきか。
そこにはテーブルを挟んだ二人が居た。
そう、ハルヒが不在なのも含めてだ。
俺は訊ねる。

「ハルヒの奴を見掛けてはいないか?」

「いえ、僕は何も」

「朝比奈さんはどうですか?」

「あたしも知りませんけど」

「そうですか」

何も起こらないはずなんだ。
長門は偶々のはずなんだ。

しかしそれなら何故、ハルヒが姿を見せない?
なんらかの意図があっての行動なのか?

解らないことだらけだ。
また頭が痛くなってきたよ。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 00:51:41.67 ID:v9J8Gv4U0
室内は誰ともなくの所為で沈痛ムード一色となり、
傍から見れば危ない宗教団体と誤解されそうなほどに硬直のまま時間が過ぎ去っていった。

時折、朝比奈さんが注いでくれたお茶を啜る音や、
古泉が将棋のコマを弄り落とす音が鳴るだけ。
その古泉にしたって、詰み将棋を装いつつも一手すらも打っておらず眺めているだけだ。

そんな中にあって、口火を切ったのが朝比奈さんだった。

「あの、キョンくん。また何かの予兆はありませんでしたか?」

おろおろとした彼女の様相は、
まるで占い師からの宣告を待つ迷い人のようにもみえる。

「ちょっと待ってください」

俺は古泉の視線を感じつつも、記憶を探り始める。
違和感や予感。
漠然と全てに対して違和感があるものの、そういえば一つだけ強く引っ掛かったものがあった。

「俺達が作ろうとしている脚本、それの原本は何処にあるか分かりませんか?」

「原本って、長門さんの?」

「はい、あれがどうも関係あるような無いような……確信は無いのですが」

「たぶん台本に落とす為に涼宮さんが持っているとは思うんだけど、
 その涼宮さんが居ないんじゃどうしようもないですよねぇ。
 内容も完全にはあたし達にも伝えられていませんし……」

「やはり駄目か」

「あ、でも、長門さんのお家を調べればメモくらいは出てくる可能性もあるんじゃ?」

その言葉で、古泉と俺は同時に立ちあがった。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 01:16:03.71 ID:v9J8Gv4U0
昨日と同じシチュエーションでの道中、古泉が語りかけて来た。

「違和感の重積には気を配ってください。
 重なり合う連鎖の先に答えがあるはずですから」

「ということはなんだ、台本と関連があるということか?」

「その可能性が高いということです」

その可能性が高いと言われても、どれをどう結び付けるのかまでは判断が付かないだろう。
まあいい、そこら辺の読解については仲間と共有して解けばいい。
ところで、長門の原本を探るよりも早い方法があることに俺は気が付いた。

「ハルヒに直接訊くのが早いような気がするんだが?」

「そんなこと昨日の時点でとっくにやってますよ。
 長門さんと接触する機会に一番恵まれていたのは涼宮さんなんですし、
 今日も彼女の同行が一切不明なので、安否を確認する為にもね」

「ということは、まさか」

「ええ、その通り。携帯電話での通話に応じて貰えませんでした。
 自宅に掛けてもすぐに切られた上で着信拒否されましたし」

「ってことは、無事ではあるんだな」

「昨日の夜の時点で、ですがね」

「ならば自宅に押し掛けるか?」

「いえ、それはやめておくべきでしょう。何か意図があってのことだと思いますし。
 仮に彼女が犯人だっとした場合、僕達が行った所でどうにもなりませんし、
 あからさまに不自然な行動を取っていれば僕達が動くまでもなく警察の方々が逮捕する筈です。
 だから一般事件の可能性は警察の方々に任せて、
 僕達は僕達にしか追えない可能性を追うべきです。
 その為のSOS団ですし、その為の貴方の能力なのですから」

古泉の言う事は一理ある。
警察で解ける問題ならば、俺達が動く必要がないからだ。
ということは逆説的に考えると、それが出来ないからこそ俺に超感覚とやらが宿った訳か?



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 01:31:15.86 ID:v9J8Gv4U0
管理人は古泉にすんなりと鍵を貸し与え、
特にこれといった差支えもなく708号室までやってこれた。

「では、開けますよ」

これも難なく開いた。
廊下を抜けて殺風景なリビングルームへ。

「何もありませんねぇ」

朝比奈さんが漏らした通り、室内は相変わらずで日用品すらも欠如したような状態だ。
良く言い換えれば片付いているとも言えるが。

「奥へ行きましょうか」

扉の先は和風の一間だった。
蒲団があり、壁際には机。
唯一調べられそうな場所はその机と、付属の引き出しくらいだ。
RPGゲームにおける唯一のタンス的な位置づけか。

「プライベートな部分を家宅捜索するのは気が引けますが」

手分けするまでも無く、古泉に任せる。
こんな場所を手分けしたら却って手間ともなりえるからだ。

程無くして、一冊のそれらしきノートが見つかった。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 07:19:42.20 ID:v9J8Gv4U0

ノートは99%が白紙で、僅か1ページ目だけに情報が記されていた。
簡素な箇条書きで構成されたメモ。
プロットとすら呼べない、単語の羅列のような状態。

「恐らく、長門さんは原本とプロットを同一のノートに書いていたのか、
 或いは別にしていたプロット帳をも手渡したのかもしれません。
 他者が台本に直す場合、設定やプロットから把握したほうが遥かに効率がいいですしね。
 まあ、長門さんであればメモや下書きなど用いずに直接書き連ねた可能性もありますが。
 いずれにせよ、渡す必要すらなかったからこそコレが残ったのかと」

古泉の解説を聞き流しながら、俺は単語の波を睨んでいく。
先ず始めに目についたのが、”ナイフ”だった。
これは映像編集の時点で俺も把握済みだ。
次に目に付いたのはキャストの名前だが、

1.長門有希
2.朝比奈みくる
3.古泉一樹

という具合に俺達SOS団全員の名前が刻まれているだけのようである。
それ以外に名前は無い。
他にも、連続殺人、失血死、ニュース、内部犯……
などなど本作で登場しそうなキーワードが並べられているだけ。

しかしただ一つだけ、下線が引かれた単語があった。

『超能力者』

この時俺は、違和感を覚えた。
今までのものとは違う、別種の感覚。
不安や恐怖などとは全く別物の何か。
だがそれが何に対する感覚なのかまではわからなかったのだが。



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 08:04:05.70 ID:v9J8Gv4U0
「超能力者……?
 これは貴方の超感覚との関連性を示すものでは?
 他には特に意味のありそうな部分も無いですし、犯人の名前なども記載されてはいないようですし」

古泉に朝比奈さんが続いた。

「ということは、収穫は無いということでしょうか?」

「いえ、そうでもないと思います。
 超能力者という単語が載せられている以上、関連性がある可能性が高まったのですから」

「じゃあやっぱり、涼宮さんに台本を借りるべきなんじゃ?」

「ええ、そうではありますが決めつけるのも良くないとも考えます。
 確定したわけでもないですし、冷静に見れば架空の物語が実際の事件に関連するとは
 考え難いものです。
 涼宮さんも先の通り連絡を取り次いで頂けない状態ですし、
 無理に自宅に押し掛けるのも逆効果となりそうですし」

「それじゃあ、どうするんですか?」

「ですがやはり、もしもの場合も考えて僕が涼宮さんの所へ伺ってみようと思います」

俺は二人の遣り取りを眺めていた。
先程の違和感の正体を探る為に黙考していたからだ。
この事件とは関係ない気がする。
けれども何か重要な感覚だという朧げな確信がある。

「キョンくん?」

「あ、はい」

「どうかしたんですか?」

「いえ、別に」

その場は空返事で返した。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 08:23:21.90 ID:v9J8Gv4U0
それからも暫く漁ってはみたものの、
他に調べられそうな場所が無かった為に家宅捜索は打ち切りとなった。
やがて各々が帰途へ着こうしていた時、
長門の部屋鍵を返しに行った朝比奈んを見遣りつつ、古泉がそっと耳打ちしてきたのだ。

「僕はこれから涼宮さんのところへ行ってみます」

「じゃあ俺も」

「そう返されると思ったから、こうやって貴方だけに話しているのですよ。
 貴方が来ると言えば朝比奈さんも着いてくるはずです。
 現時点で一番怪しいのは涼宮さんなんですから、
 女性である朝比奈さんを危険に巻き込むのは不味いでしょう?」

「それはそうだが」

「貴方も貴方で調子がおかしいようですし、また無理をなさっている節が見受けられます。
 体には負荷を掛け過ぎないようにしてください」

古泉の言うとおり、寝ていないからな。
とてもじゃないがそんな気分にはなれなかったし。
なんだかんだで映画編集も習慣として続けていた。
尤も、それは落ち着こうとする意味合いと懐かしさに浸る為のものだったが。

「とにかく、収穫があるにせよ無いにせよ明日また学校で会いましょう。
 それから余力があるのでしたら朝比奈さんを家まで無事に送り届けてあげてください。
 ここからそう距離は無いですし。
 無論、貴方自身も細心の注意を怠らないようにね」

俺は承諾し、戻ってきた朝比奈さんに古泉は、

「僕は所用がありますので」

と締めたことで二手に別れることとなった。

背中を見せた古泉が小さくなった頃、なんとなく嫌な予感に駆られたのだが、
それも声が届きそうになかったので一度だけ振り返るに留めておいた。



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 08:39:50.48 ID:v9J8Gv4U0
「あの、ごめんなさいわざわざ送って貰っちゃって」
「いいんですよ、もう18時で暗いですし、女性を一人で歩かせるのも却って心苦しいので。
 そもそも大した距離もありませんし帰り道の途中ですからね」

ちなみに、俺の家とは反対方向である。
こういう場合の常套句を言ったまでだ。
朝比奈さんはその辺りを知ってか知らずか黙々と歩いている。
仮に俺達が恋人通しだとしたならば、最悪の空気だろうな、これ。

「あのっ」

と、朝比奈さんが突っかかるように口を開いた。
俺は黙って先を促す。

「あたし達の映画はどうなっちゃうんでしょうか?
 その、こんな時に言うのもどうかとは思いますけど、折角創っていたものですし。
 それに長門さんもあんなに練習していらっしゃったので、
 未完成のまま捨てちゃうのもなんだか悲しくて……」

映画がどうなるのか。
それは編集を担わされた俺にすらわからない。
なによりあの日以来撮影が滞っているのだし、要因が欠けて撮る事が不可能となったシーンが出来た筈だからだ。
しかしそんなことは言えるわけもなく、

「なんとかしていきましょう」

と当たり障りの無いことを告げ、そのまま朝比奈さんと別れた。



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 08:54:25.80 ID:v9J8Gv4U0
その後30分程度で掛けて帰宅するなり、
朝比奈さんの言葉を思い出してまたも映画編集に勤しんでいた。
やがて通例どおり20時頃に夕食が出来たのでそれを平らげ、
またまた習慣のように入浴してから妹の言葉に耳を傾け、ニュースを眺めた。

『最近の世の中は――』

昨日に引き続き何の重要性もないような情報が流れたことを確認するなり、

「邪魔するなよ」

とこれまた日々の文句を妹に投げかけて自室へと戻ったのである。

他にやる事も無かったので気を紛らわせる為に、俺は自然と編集作業に没頭していった。



166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 09:18:56.43 ID:v9J8Gv4U0
翌日。
予想通りにも空いていたハルヒの席を確認し、
俺が急ぎの登校によって荒れた息を整えていると、
それを待っていたかのように谷口が擦り寄ってきやがった。

「件の殺人事件、長門有希が被害者なんだってな。
 噂によればその時の第一発見者がお前らしいじゃないか」

俺の思い違いかもしれないが、谷口の眼には好奇の色が浮かんでいるような気がした。
いや、きっと気の所為だろうな。
こいつはそこまで腐っちゃいないはずだ。
俺が疲れているだけだ。
そんな俺の心境など介さずに、谷口は独りでに続けていく。

「しっかし殺人なんてやる奴の気が知れないぜ?
 あんな可愛い子を殺しちまってもなんの得にもならないじゃねぇか。
 俺だったらそういうことを考える前に、お付き合いの申し出を通す方法を考えるね」

殺人なんてやるやつの気が知れないか。
確かに、俺もそれについては一片の曇りなく同意だな。

「だろ? やっぱりキョンもそう思うよな。
 女子高生を手に掛けたところで、一銭の得にもならないからな」

「まあ、結局そういう事をやる奴は気が狂ってやがるのさ。
 衝動的なのか計画的なのか、はたまたそれ以外なのかまでは知らなんがな。
 全く、はた迷惑なやつも居たものだ、くそっ」

この一見なんの意味も無く思えた会話。
客観的なその思いに反し、俺は何故かこれらにも漠然とした違和感があった。



167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 09:26:50.89 ID:v9J8Gv4U0
当然の如く姿を見せなかったハルヒ。
俺はそれに一抹の不安を抱きつつも、古泉の収穫を期待して部室へと向かった。

ノック。
返答。
いつも通りだ。

「入ります」

扉を開けると、

「こんにちはぁ」

との甘い声。
しかし一人足りない。

「古泉はどうしたんですか?」

「たぶん、まだなんじゃないでしょうかぁ」

いつも俺より早い筈の古泉が今日に限って遅いとはな。
とはいえ、そんな日もあることだろう。

俺達はお茶を片手に静かに待っていた。
だが古泉は30分経ってもやってこなかったのである。



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 09:51:44.87 ID:v9J8Gv4U0
「遅すぎる」

「そんなに焦らなくても……」

「俺達の映画で連続殺人を題材している以上、何かあった可能性もあります」

「けど、古泉くんは関連性がないんじゃないかってぇ」

それは朝比奈さんを不安がらせない為の仮初の嘘であることは明白だ。
奴はそれなりに俺の”予感”と、それに準じた”シナリオ”の関連性を疑っていた。
そもそも、

『収穫があるにせよ無いにせよ明日また学校で会いましょう。』

と奴は言っていた。
そうなのだ、そう言ったからには放課後まで待たなくとも奴が来て然るべきなのだ。

携帯電話を取り出し、ダイヤルする。

……繋がらない。
電波が届かない場所か電源が入っていないという無機質な声だけだ。

「朝比奈さん、学校で古泉を見掛けませんでしたか?」

「いえ、あたしは学年も違いますし」

なんてこった。
考えてみれば昨日、古泉と別れる際に予感があったのだ。

「朝比奈さん、すぐに行きましょう!」

「何処へ?」

「古泉の家へです!」

返事も待たずに、俺は部室から飛び出した。
無事でいてくれたらいいのに。
という、長門の時と同じような想いに駆られながら。



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 20:12:58.65 ID:v9J8Gv4U0
市街地と公道から外れ、木々やちょっとした作物畑もあるような地域。
そこの外周1〜2kmはある溜め池のほとりに古泉宅は隣接している。

現在時刻は17時過ぎ。

「こんな時間なのに、あんまり人とすれ違わないんですねぇ」

という朝比奈さんの言葉にも頷ける。
陽が落ち見通しが利かなくなれば、人気など皆無に近いだろう。
ただでさえ池の周りは鬱蒼とした木々で陽が遮られているのだ。
夜ともなれば不気味そのものである。

「俺が行きます」

呼び鈴を連打するように押し続ける。
やがて迷惑そうな顔をした古泉の母が出て来た。
俺は挨拶すら省いて率直に訊ねたところ、不安げな顔へと変貌し、

「昨夜何処かへ出掛けたみたいなんだけど、それ以来見ていないのよ」

やられた。
不味い、明らかに不味い。
しかしなんでもいいから手掛かりが欲しい。
ならば、

「古泉が出掛けた時間や場所はわかりますか?」
「ちょっとそこまで、と言ってたみたいだけど場所までは……。
 どうせまた部活かアルバイトかの集まりかなと思ってたから詳しくは訊かなかったしねぇ。
 えっと、時間は大体21時30分か40分過ぎくらいだったと思うけど」



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 20:30:27.95 ID:v9J8Gv4U0
4年前までは普通の学生、か。
きっと家族にも事情を隠していたのだろう。

「ありがとうございました」

「いいのよ。うちの子はやんちゃだけど、根はいい子だから良くしてあげてね」

古泉の母に礼を述べ、玄関の戸が閉め切られたのを確認してから俺は思案し始めた。

何故、わざわざ夜に出歩く必要があったのか。
奴がハルヒのところへ行くと残したのは、俺と朝比奈さんが別れた18時前のはず。
しかし古泉が家を出たのが21時30分過ぎ。
つまり帰宅してから再び外出したことになる。
それともハルヒの所へ行く予定が狂い、夜を待たざるを得なかったのだろうか?

「あのー、キョンくん」

黙りこんでいた俺を心配するかのような朝比奈さんの視線を感じ、
俺は慌てて明るく振る舞った。

「すみません、ちょっと考え事をしていたので」

「その、あたし思ったんですけど、この辺りで”視る”ことは出来ないんでしょうか?
 それが出来れば古泉くんの動向も一目瞭然ですし」

わかっていますよ朝比奈さん。
ですが、それが出来ないからこうやって考え込んでいるんです。
この辺りには何も感じない。
何故かまではわからないのですが、読めないんです、過去が。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 20:41:21.56 ID:v9J8Gv4U0
ん、そういえば古泉は自転車通学だったはず。
なのに車庫のところに自転車が止めてある。
ということは、

「朝比奈さん、辺りを散策してみましょう」

「で、でも何の手がかりも無しじゃあ……」

「手掛かりはありますよ、母親の言葉とそこに止めてある自転車がね。
 もし古泉が遠出をするつもりならば間違いなく自転車を使うはずですし、
 現に母親への『ちょっとそこまで』という言葉から察しても、
 歩きでも十分な距離へ出たことになります」

「けどぉ、何処を探せばいいんでしょうか?」

俺達が再び堂々巡りとなり掛けた時、メイド服姿の見知った人影が目に付いたのだ。



200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 20:46:27.39 ID:hHc/jMea0
森さんか


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 20:56:25.72 ID:v9J8Gv4U0
「鶴屋さん!」

道路中央に立ち、こちらへ背中を向け金剛力士の構えを決めていた彼女は、
俺の呼びかけで豪快にスカートを翻しつつ振り返り、
さらに見せつけるように髪を掻き上げた後で大音声を響かせた。

「どうしたんだい!?」

ただの一言を口にするのにこの前フリ。
まっこと無駄過ぎる。
なんてツッコミを入れている場合じゃない。

「古泉の奴を見掛けませんでしたか!?」

「いや、見掛けちゃいないね!」

「そうですか、では」

「ちょっと待ちなっ! お姉さんに事情を話してみるっさ!」

待って、わかったから揺すらないで下さい。
このままでは肩を外されれかねない、と観念して俺は端的に説明した。

「ふーん、それで古泉くんを?」

「ええ、それで手詰まりな状況でして」

その言葉を皮切りに鶴屋さんはうんうんとオーバーに唸り始め、
朝比奈さんの方も流石に面倒になったのか表情に焦眉の相が現れたころ、
ようやく結論に達してくれた。

「状況から判断する限り、古泉くんの身に何かあったって考えるほうが自然だね。
 だとしたら発想の転換ってやつで考えて見るべきだよ」



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 21:13:58.62 ID:v9J8Gv4U0
発想の転換?

「そう、発想の転換っ!
 何かあったと思うのならば、
 何かを起こした側の気持ちになって考えれば答えが見えてくる事もある」

「それは一体?」

「古泉くんを呼び出した相手の心情。
 そして古泉くんの安否が知れないという現状。
 もう、わかるよねっ?」

――重なり合う連鎖の先に答えがあるはずですから。

なるほど、そういうことか。古泉の身が危ういという前提で考えるのは避けていたんだが致し方ない。
つまり、こう言いたいんですね?

「犯人側から考えろと」

「そーいうこと!」

犯人が殺意を以って呼び出したと仮定するならば、恐らく人気の無い場所へと誘導するはず。
長門の時同様の手口で考えればだ。且つ距離は近く、ちょっとそこまでで、事が済んだ後に隠蔽出来そうな場所。

「溜池、それもより一層木々が茂った公園。その後は沈めて隠蔽」

この考えは出来れば外れていて欲しいものだが。
ともかく可能性を潰さないことにはどうにもならない。

「じゃ、またねっ! ……あっ、忘れるとこだった。
 うちのクラスは今年も焼きそば作って待ってるから食べにきなよ!
 水はタダ、好きなだけ飲みほうだい! 可愛い子も揃ってるよー!」

鶴屋さんは水と油並に場違いな空気を纏いつつ、夕暮れの街へと消えていった。



206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 21:28:31.33 ID:v9J8Gv4U0
犯人側の視点。
手掛かりが尽きている現状では、これに勝る手段はない。
それは判る。

だが何か……何かが引っ掛かる。
何に引っ掛かっているんだ、俺は?

「キョンくん大丈夫?」

「え? ああ、はい大丈夫ですよ」

「また頭を押さえてましたけど」

「いつもの頭痛です」

もうすぐ”視る”ことになりそうな気がする。
それを考えると早くも辟易としてしまう。

頼む、無事でいてくれ古泉。

今まではあのニヤケ面のスマイルが鬱陶しいと思っていたが、
それを今後一切目に出来なくなるのは些か寂しいじゃないか。
また会えた暁にはその笑顔を心から褒めちぎってやる。
チェスでもオセロでも微妙に負けてやる。

だから古泉、無事に帰ってこい。



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 21:49:55.33 ID:v9J8Gv4U0
陽の光を奪い合う木々が、外界を遮断するように盛えている公園。
内部面積はそれほど広くないにせよ、
端の方に申し訳程度で置かれた街灯だけでは辺りを照らすには不十分すぎると一目で解る。
さらには遊具が寂れ、塗装も剥げ落ち、普段から人気がないことが窺える。

「暗いですね、ここ」

まだ傾いた陽射があるにせよ既に街灯が頼りなく輝いていることから、
客観的な立場で見ても暗澹と感じるのは間違いないだろう。

そしてやはり俺の気が参りそうになっているのは、
公園奥のベンチから只ならぬ気配が伝わってくるからである。

そう、感じたのだ。

「見つけました」

朝比奈さんに短く告げて誘われるように歩み寄って行く。
ひしひしと襲い来る嫌な予感を退けながら。

「やってみます」

深呼吸を一つ置いたあと俺は――

ベンチの背に触れた。



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 22:04:47.18 ID:v9J8Gv4U0
ザザッ。

ザァー……

電流のような衝撃があっという間に溶けていく。
同時に先程まであった空気や音といった質感が、ホワイトノイズの中へと埋もれていく。

砂嵐。その奥の朧なビジョン。

いつも以上に視界が利かない。
離れた位置は黒で塗りつぶされ見通せない。
つまりは恐らく、時間帯が夜分であることを指している。

睨む。
段々と晴れゆく世界の中で、”俺”がベンチに腰掛けているらしいことがわかった。
どうやら方向的には公園入口のほうを向いているらしい。

誰かを待っているのだろうか?

そう推測し始めたころ、人影が揺れた。
暗く遠すぎる所為で性別や年頃すらも見取れない。

段々と近づいてくる……

視えた。片腕を挙げている。
そして口が動いた。

『やぁ、どうも』

古泉だった。



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 22:24:20.02 ID:v9J8Gv4U0
古泉が俺に何かを差し出してきた。
白い紙の束。
そこにデカデカと書かれた題字。

『県立北高事件』

これは俺達に渡されていた物と同等のものか?
……いや違う。
俺達へ渡されたものには北高と事件の間に”殺人”の文字があったはずだ。
それに題字の右隅に”超監督”印がこれ見よがしに押されている。

完全版の台本か。

俺はそれの中身を見ているようだ。
しかし荒い映像では細かい文字を読み解けない。
時折、古泉が指で箇所箇所を差している。
注目すべき点でも見つかったのか?

俺が古泉を見た。
古泉は笑っていた。

『やれやれ』

という肩を竦めるポーズ。
俺もそれを一通り眺めたあと、どうやら台本を突き返したようだ。

『では』

そして古泉が背を見せた。



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 22:45:33.60 ID:v9J8Gv4U0
(待て!)

そう叫んだ瞬間には、既に古泉の背にナイフを突き刺していた。
背中右側、やや下から上方向へと向けた軌道。

肝臓を狙った。

それに加え左手で古泉の口を塞ぐ。
肝臓を刺せば激痛が走り即座に意識を奪えるが、
その実、気を失う前に声をあげられる可能性が高いからだ。

だが予想に反し、古泉は倒れなかった。
振りほどく様に身を捩り、大層に暴れだした。
ちらりと窺えた苦悶の表情から伝わってきた、その必死の抵抗。

俺は古泉を黙らせるようにナイフを捻じ込むと、
左手での首投げと足払いを兼ねて地面に叩き付けた。

歯を食いしばっている。
地面に倒れた古泉が。
それを一瞬だけ見下ろし、すぐさまナイフの握りを確かめると――

恐怖で歪んだ古泉の右目に、ソレを押し込んだ。



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 22:48:24.64 ID:KM+cLT1s0
さあ少々猟奇的になってまいりました


219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:04:20.15 ID:v9J8Gv4U0
引き摺る。
長門の時のように。
トドメを刺し動きを止めたモノである古泉を、暗がりの中へと運んで行く。

奥へ、奥へ。
ベンチの後ろのさらにその奥へ。
溜池に隣接する林の中へ。

やがて池へ落ち込む傾斜となった場所まで運び終えると、
そこから強引に蹴り落とした。

転がっていく。
古泉が転がり落ちていく。

落ち葉の上で叩きつけられ、ごろごろと。

やがて最後の傾斜から転げ落ちると、古泉は波紋を残しながら水没していった。
汚い水底のなかに。

俺はそれを見届けると、落ちていた台本も投げ落とした。
それらは風の抵抗を受けてはらりと舞い散り、
辺りに拡がったのを確認すると――



220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:07:44.63 ID:v9J8Gv4U0
「なっ……!」

世界が戻った。
苦しい。息をしなければ。

「キョンくんっ!」

朝比奈さんの温かみを背中に感じる。
俺は地面に突っ伏していた。
顔を起こし身を上げると砂が零れおちていく。
だがそんなものに構っている暇はない。
今の映像が本物だとすると古泉は……

「朝比奈さんはそこに居てください!」

走る。
ベンチの後ろ、ボロボロのフェンスで仕切られた向こう側へ。
それを越えて木々が生い茂った一面を見下ろす。
傾斜がキツく、暗がりで見えにくい。
目を凝らす。

何処だ、どの辺りだ!?

一枚の紙切れ。
その奥に紙切れ。
その奥にまた紙切れ。
それらを追った先に――

古泉が居た。
蒼白な顔色で上体を岸辺に晒した格好で、古泉が死んでいた。



221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:14:33.62 ID:WVKNkBduO
古泉…


222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:19:01.91 ID:v9J8Gv4U0
「キョンくん……」
「朝比奈さんっ!」

背後まで来ていた朝比奈さんの顔が、一瞬にして驚愕に満ちていた。
一歩、二歩、と機械仕掛けのように後ろに退いていく。
慌てて近寄り抱き止めると、彼女はそのまま気を失ってしまった。

くそっ、俺だって倒れちまいたいくらいだ。
畜生、古泉までやられちまうなんて……
馬鹿か、そんなことある訳が……

「なんなんだ一体、なにがどうなってやがるんだ!?」

怒号が寂れた園内を反射し、俺自身へと降り注いできた。
叫んだところで何も進展はしない。
それはわかっている。
しかしどうしようもねぇじゃねぇか。

「畜生がッ!」

このままだと朝比奈さんを殴りつけてしまいそうな気がし、
急場凌ぎとしてベンチに寝かせた。

落ち着け、冷静になれ。
やることがある。

調べなければ。
手掛かりを。
古泉が遺してくれた糸口を。



223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:32:45.33 ID:v9J8Gv4U0
やはり古泉は息絶えていた。
眼球が零れ水を吸った無残な顔面は、直視するに耐え難かった。

すまん、古泉。
何もしてやれそうにない。

そっと黙祷を捧げ、”現場”を探っていく。

道を作るように落ち葉が荒れている。
つまりこれは間違いなくあの映像で見たとおり、上から叩き落とされたことを示している。
古泉の死体が岸辺についているのは、恐らく時間が立ち浮上したためだろう。
人体を沈め切るには体重同等の重石が必要となるが、
それをやらなかったのは時間が無い為か知識が無い為か、或いは敢えて発見させる為か……
いや、早合点はよくない。
今は状況を確認するにとどめておこう。

しかし上のフェンス。
あれを抱えあげるのはそれ相応に苦労しそうなものだが。
脇には金網が破れた位置もあるが、あの狭い個所を通れば衣服がズタズタになりそうでもある。
だが古泉の衣服に刺し傷以外の解れは見当たらないし。

ちっ、映像の断片が欠けていなきゃ一目瞭然なのにな。
何故、任意に使えないんだこの能力は。
役に立つようで役に立たない、宴会芸並に陳腐な奇術かよ。

落ち着け、俺。
愚痴るのは後だ。

今探るべき一番の情報は、この散らばった台本だからな。



227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 00:01:58.76 ID:SDS4EPFS0
全部で四枚見つかった紙切れには、簡素な字体で驚くべき情報が記載されていた。
右下のページ番号を元に、若い順に読み上げていく。


一枚目

『各登場人物の殺害方法と殺害時刻について』

この頁では、殺害日時、殺害現場、用いられる凶器、方法などを列記していく。
各演技者はそれをもとに演じることになるため、
必要事項が一目で分かるよう、このような形を採らせて頂く。

以下省略。


二枚目

『演技者:長門有希』

日時:11月9日 18時38分。
場所:いとう神社。
凶器:ナイフ
方法:頸部への一撃による甲状軟骨の損傷及び窒息。それに伴う頸動脈の断裂による失血死。
    後処理を済ませ次第、本殿下へ隠匿。

以下省略。



229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 00:15:52.31 ID:SDS4EPFS0
三枚目

『演技者:古泉一樹』

日時:11月11日 22時03分。
場所:公園。
凶器:ナイフ
方法:肝臓の損傷による臓器不全。及び眼球への一撃による脳部損傷。
    後処理を済ませ次第、池に投棄。

以下省略。


四枚目 (この紙だけページ番号が飛んでいる)

『犯人と探偵の対峙』

三件の犯行を終えた罪人は、探偵によって白日の元へと晒される。
その際、銃撃を受けて死亡。
以上の手筈で、本映画のラストシーンは幕を下ろす事となる。
既定外の行動は取り得ない。



230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 00:23:21.26 ID:SDS4EPFS0
気になるのはだ。
この台本の下部には、ページ番号と共に次頁の題が小さく記載されているという点だ。

一枚目には『演技者:長門有希』
二枚目には『演技者:古泉一樹』

そしてその三枚目。
つまりは古泉に関しての情報が記載されているページ下部。

三枚目には『演技者:朝比奈みくる』

それまでの法則を当て嵌めて考えるならば、
紛失している本来の四枚目には、朝比奈さんの演技情報が記載されていることになる。
即ち、殺害に至る詳細な情報が。

つまり、次の犠牲者は朝比奈さんということか?

何か釈然としない。
もっと情報が欲しい。
そう思い立ち付近の捜索を続けたものの、見つかった紙切れはその4枚きりだった。

風に流されたのだろうか?
あの映像では不鮮明ながらも、それなりの束に見えたのだが。
いや、見間違いという可能性も否定はできない。
が、やはり腑に落ちない。

どうなってやがる。



224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/08(水) 23:34:32.18 ID:lshRBmH80
キョン「謎は全て、解けた
長門達を殺した真犯人スコーピオンは、この中にいる!!」


235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 00:49:53.85 ID:j5Hq1MsT0
じっちゃんの名にかけて


239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 01:41:27.89 ID:SDS4EPFS0
引っ掛かる。俺は何かにずっと引っ掛かっているんだ。
しかしそれが何かが分からない。
どうやればそれを探れる。

「あのー、キョンくぅ〜ん?」

朝比奈さんが目を覚ましたのか。
だとしたら、またこちらへと来られて倒れられても面倒だ。

「朝比奈さん、気分は優れましたか?」

「優れるわけないじゃないですかぁー」

気遣いの常套句を述べた俺に、考えてもみれば当然な反論を放った朝比奈さんは、
先の情景と事実を思い出したのか再びぽろぽろと涙を零し始めた。

「既に通報はしておきました、そろそろ警察の方が見えられるはずです」

「あの、やっぱり、ぐすっ……古泉くんはっ……」

俺は事実を告げた。

「なんで古泉くんまでっ」

それは俺だって知りたい。
だが、それが分からないからこうやって人が死んでいくんだ。

そして恐らく、次は貴女の番になる可能性が極めて高い。

再び声を殺して泣き出した朝比奈さんを前にして、
俺は台本の内容をどう伝えるべきかの逡巡に追われ、
ただ立ち尽くすことしかできなかった。



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 02:08:58.10 ID:SDS4EPFS0
現在時刻は18時00分。
公園に到着したのが17時30分過ぎで、
それから古泉の発見、通報、俺の捜索という流れを兼ねての時間経過だ。

「また、君達かい」

数人の警官隊の中からあぶれるように、柔和な物腰を携えた私服刑事が訊ねて来た。
一昨日、俺達を自宅まで送り届けてくれた人だ。

「なんと言っていいか……先ずはそうだね、不幸だったとしか言えないね。
 あと、念の為に訊かせて貰うけれど、どういった経緯でここまで来たんだい?」

俺は混乱しそうな頭を押さえることで落ち着かせ、考えを整理してから答えた。

「今日学校で会うはずの友人、古泉の行方が知れず、心配になりました。
 件の長門の件もあって嫌な予感がした為に、俺は古泉の行方を友人に尋ね、
 携帯電話も通じず、それでますます不安に駆られて
 朝比奈さんと共に古泉の自宅へと向かいました。
 それで古泉が昨晩から帰っていないという話を窺い、付近を捜索したところ……」

「発見したと」

「はい」

そこで一旦、どちらともなく言葉が切れた。
互いに数十秒近く無言のまま考え込み、再び言をとったのは刑事だった。

「それにしても、こんな解り辛い場所なのによく発見出来たものだね」

声のトーンががくりと落ちている。
不安を感じ相手の眼光を見遣ると、明らかな疑惑の念を孕んだ眼差しに、俺は射抜かれていた。



242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 02:32:59.13 ID:SDS4EPFS0
「まさか、俺を疑っているのですか?」

「ああ、その通りだよ。君だけでなく、その隣の彼女もな」

客観的に見ればそうだろう。
誰だってこの状況では、第一発見者を疑うに決まっている。
ましてや俺は二度も続けて発見し、且つ二人共とSOS団という繋がりがある。

さらにはなんだ、発見に至った決め手が過去視だかサイコメトリーだかだって?
そんなもの信じて貰えるのか?
今までのSOS団活動ですら、周りには不可解な目で見られてたってのに?

とはいえ下手な嘘など吐こうものなら、本当に容疑者の一人として名指され兼ねない。
冤罪逮捕で新聞蘭を飾っちまう、なんて実例も何度か目撃した事もある。

だったら俺は、超能力とやらを真面目顔で訴えるべきなのか?
任意では実演すらできないのにか?

頭が痛い。
どうすりゃいいんだよ。

かのように焦燥の彼方にあった俺の困惑をどう受け取ったのか、
刑事が渋味と笑みを混ぜ合わせた面構えで言った。

「ま、話を聞かせて貰った限りだと、それなりの推測を重ねてこの場所へと辿り着いたようだしな。
 なにより君が悪に染まるような人間には見えそうもない。
 もし何らかの関連を持っているのならば、こうやって一端の刑事に睨まると香りが出るからね」

表情では薄く笑ってはいるが、警戒の色はただの一滴たりとも解かれてはいない。
それが眼光越しに伝わってくる。



244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 02:45:48.98 ID:SDS4EPFS0

「私は街の平和を守るのが仕事な訳だ。疑える可能性は全て当たらなくちゃならない。
 君達には重ねて言うことにもなるが、あまり夜は出歩かないほうがいい。
 これ以上の犠牲者を出さない為にも、そして君達自身の潔白の為にもだ」

ところどころで力強く溜める言葉。
それには妙な説得力と威圧感を生み出す効果があるらしい。

「さあ、今日はもう帰りたまえ。
 じきに陽が落ちるから、それよりも早く家に帰って大人しくしていなさい」

その言葉で追い出されるように、俺達は現場となった公園を後にした。

尚も背後から降り注ぐ刺す様な視線に気が付かないフリをして、
朝比奈さんと二人、暗がりと化し始めた帰路を辿り始めた。



246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 03:05:22.08 ID:SDS4EPFS0

――君達が嘘をも事実として隠し通せる一流の演技者ならば、話は別だがな

去り際に呟かれた一言を、俺は反芻していた。
単なる自主制作映画の出演者でしかない俺に、そうまで出来る自信はない。

そんなことよりもだ。
結局、話しそびれてしまった。
超能力のことも、そして鞄の中に仕舞っていた台本のことも。

だって、あの状況でそれらを口に出してもみろ。
即座にパトカーへ向かって親指を指されちまいそうだ。

だがどうする?
朝比奈さんに危険が迫っている以上、なにか手を打たなければならない。
なら、朝比奈さんに台本の件を伝えるか?
いや、それをやった所で不安がらせるだけであり、何の解決策にもならない気がする。

そのようにバラバラと纏らない策を練っていた俺に、朝比奈さんが問いかけて来た。

「もしかして、あたし達SOS団のみんなが狙われちゃっているんでしょうか。
 古泉くんも映画がどうとか言ってましたし、実際に関連している人たちが次々に、その……」

状況から推察するとそれで間違いないはずだ。
だが、

「させません」

それを認めるわけにはいかない。



248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 03:31:26.15 ID:SDS4EPFS0
黄昏時も終局直前を迎え、影が無限に伸びきる時間帯となってきた。
辺りでは朱の光と物の影が曖昧に溶け合わさり、見通しが非常に利きにくい。
そのような状況下でだ。

ふと、やや遅れて歩をとっていた朝比奈さんの方を振り返った時、
彼女の背後遥か遠くに人影を見つけたのだ。

誰だ?

なんとなく気に掛かり、目を凝らしてみた。
すると相手も俺の視線に気づいたのか、住宅の影へ吸い込まれるように流れ消えた。

「朝比奈さん、ちょっと行ってきます!」

逆行と光加減で姿がはっきりしなかったが、
帽子を目深にかぶっており、ラフな服装であの様子。

尾けられている。

そう確信し、俺は駆けたのだ。
十数秒で相手が消えた角まで着き、見回した。

……くそ、誰も居ない。
入り組んだ住宅街では追おうにも別れ道が多すぎる。

「どうしたんですか?」

ようやっと駆け付けてきた朝比奈さんには、

「いえ、気のせいでした」

と答えるほかなかった。



250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 04:00:17.70 ID:SDS4EPFS0
俺が朝比奈さんを送り届けた時には、既に陽が落ち夕闇が訪れていた。
俺達は暗く聳え立っている朝比奈宅を前にして、言葉を交わしていた。

「すみません、また送って貰っちゃって」

「いいんですよ」

「じゃあ、その……」

明かりが灯っていない一軒家。
周知の通り、一人暮らしなのだから当然でもあるが。

「あのっ」

朝比奈さんはその玄関扉を開きかけた所で、再びこちらへと向き直った。
怯えるような期待するかのような、なんとも微妙な表情。
実に悩ましいね。などと常時ならではの定句を飛ばせる空気ではない。

「あの、そのぉ……キョンくんって、今夜忙しかったりしますか?」

やっぱりそれしかないか。
俺自身あれらかも悩み続けたものの、何一つ名案が思い浮かばなかった末に、端的な一つの方法を思い付いていたのだが。
もし朝比奈さんが口を開かねば俺から言おうと考えていた策を、どうやら彼女が代弁するようだ。

「もしよかったら、その、一緒に居て貰えないでしょうか?
 あの、迷惑でなければでいいですけど……」

俯く朝比奈さんに掛ける言葉など、SOS団設立当初から決まっている。

「もちろん、お力添えさせて頂きます」

断れる筈もないさ。



255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 04:31:07.41 ID:E/e2+iciO
佳境か…


304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 19:34:56.03 ID:SDS4EPFS0

早速招き入れようとする朝比奈さんには悪いが、その前にやることがある。

「すみません、一旦家に帰ります」

「どうしてですか?」

「こういう事態なので一言だけでも親に外泊すると伝えておいたほうがいいでしょうし、
 それに着替えなんかも取って来たいので」

「パジャマなら貸しますよ?」

それは色々と無理があるでしょうに。
とにかく、

「屋内の戸締りを全て済ませ、俺が戻るまでは玄関にも鍵を掛けておいて下さい。
 もちろん、誰かが訪ねて来ても決して扉を開けないように。
 俺がこちらに着いたら携帯電話で呼び出しますので」

それだけを告げ、納得した朝比奈さんを残し俺は足早に帰路を辿った。



307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 19:49:48.36 ID:SDS4EPFS0
自宅へ着いた時には19時を過ぎていた。
はしゃぎながら迎えてくれた妹と、台所へ立っていた母親へ、

「友人のところに外泊してくるから」

反論させる暇すら与えずに退散。
そそくさと自室へと戻った。

そのまま流れるように適当なバッグを掴むと、これまた適当に身支度を済ませる。
こういう事態で無ければどれほど心躍っていただろうか。
あの何も考えずに日々を堪能していた頃が懐かしい。

さて、これでいいかな。

確認の為に自室を見回すとノートパソコンが目に映った。
そういえばここの所はずっと編集の日々だったな。
気が付けば、既に手元にないと落ち着かないほど深刻な依存状態となっている気がする。
一応、持って行くか。
夜の番をしなくちゃならんので、暇つぶしに編集でもやればいいだろう。

俺は周辺機器の線を外していき、無駄に用意されていたスキャナやプリンタ、
ペンタブレットなどは混線のまま放置の姿勢をとることにした。

階下へ急ぐ。

「かのじょかのじょー?」

出会い頭に煩いぞ妹。

「怖いお」

じゃあ、行ってくるからな。



311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 19:59:28.62 ID:SDS4EPFS0

夜の中へと片足を突っ込んでいる街を、自転車で駆けて行く。
流石にこの季節ともなると冷えてくるな。

その冷たい風に晒されると、伴って頭も冴えて来た。

古泉は、なぜ笑っていたのだろうか。
殺される直前だったというのに。
それにあの台本、どう見ても笑いながら話すような内容じゃあない。
なんせ自身の死亡予定日時が事細かに記載されているんだからな。

もし俺が古泉の立場であったなら、あんなモノを見せられた後で外を出歩こなどとは思わない。

それにだ。
冷静に考えてもみれば、台本に記された時刻丁度に人が殺せるものなのか?

……出来過ぎている。

何処かに糸口があるはずなんだ。
これはどの部分から破綻している。

それにこれだけ手掛かりがありながら、何故俺は犯人にたどり着けない?

それともまだ足りないのか?
決定的な何かが。



313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 20:11:55.25 ID:SDS4EPFS0
朝比奈さん宅まで戻って来た時だ。
また人影を見つけた。

街灯が無い場所を狙っているかのような立ち位置。
目深に被った帽子。
またあいつか。

俺は追跡するべきか迷っものの、
相手も始めからこちらを警戒していたらしく、即座に身を翻して走り去ってしまった。

あの方向的に、また住宅街方面か。
この距離から追ったところで、きっと水泡に帰すことになるだけだな。
くそっ、気味が悪いがどうしようもないことには変わりない。
ならば、さっさと篭城の姿勢をとらせて頂くべきか。

そのように考えを纏め、携帯電話を用いて朝比奈さんを呼び出す。

「キョンくんですかー」

扉越しの声。
どうやら、ある程度の機転は利かせてくれているようだ。

「そうです、開けてください」

がちゃがちゃと騒がしいチェーンロックを外れると、

「一人は怖かったんですよぉ」

扉に縋り付きながらの朝比奈さんが顔を出した。



315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 20:48:11.62 ID:SDS4EPFS0
20時00分。
朝比奈さんは見掛けに依らず調理スキルには長けているようで、
ふんだんな趣向ともやしを凝らした豪勢な夕食を振る舞ってくれた。

このような状況下では自然と会話に華が咲き、
互いの漠然とした将来についてでも語り合っていく、というのが――

いや、こうやって独白で気分を落ち着かせるのはもうやめよう。
ここから先に紆余曲折は必要ない。
有るのは、直線的に答えを目指す意志だけだ。

下手に気を抜けばまたもや新たな犠牲者が出ることと成り兼ねないからな。

いや、あの台本から察するにほぼ確定とみていいだろう。
但しあれは、何も手を打たなかった場合の話だ。
何らかの対策は打ち出せる筈。

……まあ、一つしか思いつかないのだが。



316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 20:58:41.60 ID:SDS4EPFS0
21時00分を廻ると、俺は習慣通りにテレビでニュースを眺めていた。
何処よりも早い速報、を謳っているこの番組で見出しとなっていたのは、

『連続殺人事件』

ニュースによれば、先の一件と長門・古泉の二件を結び付けて三件連続としているらしい。
流石に三件目ともなるとトップニュースに躍り出るんだな。
不幸が重なればなるほど持ち上げられるとは、とことん皮肉が利いてるね。

だが最初連続三件ともなると、先の一件である被害者は誰なんだ?
ずっと身元”不明状態”なんだが。
確認を取るのはそんなに時間がかかるものなのだろうか。

いや、余計なことに気を揉んでいる場合じゃないか。



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 21:13:44.60 ID:SDS4EPFS0
俺達は玄関横にある居間に陣取り、
口数少ないままに時間を過ごしていった。
やがて夜も更け、朝比奈さんがゆらりくらりと船を漕ぎ出した頃、

「朝比奈さん、上で寝たらどうです?」

俺は提案することにしたのだ。
それにより朝比奈さんは弾かれたように面を上げ、

「い、いえっ、大丈夫ですから……」

言い終わるそばから眠そうに眼を擦っていた。
だが、俺さえ起きていれば特に問題も起こらないはずだし、
玄関にはチェーンロック付きで鍵も掛けてある。
さらに家全体の鍵も朝比奈さん自身が掛けたと言い張り、
俺も一応はチェックしたのだから万全のはずだ。

俺は未だに台本の”予告”を知らせるべきかどうか迷ってはいるが、
この状況下において必要以上に不安がらせる必要もないと思い黙っているのが現状だ。

さらに半時が経った時、

「やっぱり寝ます」

思ったよりすんなりと階上へ向かっていった彼女を見送っていた。



321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 21:27:27.62 ID:SDS4EPFS0
もう零時か。
壁掛け時計を見遣り、絶え間なくズキズキと痛む頭を押さえた。
片手には苦味一色のコーヒー。
飲んでも美味くは無いどころかむしろ不味いのだが、眠気を覚ますには一役買ってくれている。
尤も、こんなものがなくたって貫徹など余裕なんだけどな。

テレビでは一通りのニュースも終わり、
特に面白くもなさそうな微妙な深夜帯となったことで、俺はノートパソコンを取り出していった。
もはや自動操縦並に慣れた操作で、既定のソフトウェアを立ちあげて編集の準備を行っていく。

しかし、こんな時まで何をやっているんだろうな、俺は。

未だに俺は映画を完成させたいと思っているのだろうか。
こんな状況に追いやられているというのに。
さらにはもう、キャストに欠員が出ているというのに。

パソコン上には懐かしい映像が拡がっている。
相変わらずに進んでいない編集に苦笑いし、俺は作業に没頭していった。



325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 21:47:10.45 ID:SDS4EPFS0
『ろくじごじゅうごふん、ろくじごじゅうごふん!』

というお決まりのニュースによって、俺は夜が明けたと実感した。
朝であることを証明する窓越しの柔らかな日差しを浴びていると、
自然と気分も高まってくるというものである。

俺はノートパソコンの電源を落として伸びを一つ決め、
目覚めようにクリームと砂糖を目一杯放り込んだコーヒーを飲み下した。

夜通し起きていたから腹が減ってたまらない。
が、人様の家の冷蔵庫を漁るなど以ての外だし、朝比奈さんに催促するのもみっともない。

このテーブルの上の食パンならばギリギリOKか?
などなど意味のないセーフティラインを築きつつも、俺は朝比奈さんの起床を待ち続けた。

時間が一分刻んでいく度に、腹の音が響き渡る。
やがて三十程の音を聞き終えたとき、俺の中に嫌な予感が走っていた。

今日も学校があるというのに、流石に遅過ぎるんじゃないのか?
という当たり前の感性に基く予感と、
まさか何かあったんじゃないだろうか?
という超感覚による予感だった。



328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:01:25.76 ID:SDS4EPFS0
一人暮らしにしては無駄に部屋が多い。
まあ、普通の一軒家なのだから当然なのだが。

俺は二階へ向かい、奥まった位置にある扉をノックした。

「朝比奈さん、寝覚めはよろしゅうございますか」

……返事がない。
開けてもいいのだろうか?
だが万が一、彼女がお着替え中でありそれを覗き見た場合、
他者の眼がある部室での寸劇のようには流せない。
ならばもう一度だ。

「朝比奈さん、朝ですよ?」

やはり返事がない。
これは目を覚ましていないということを意味している。

「入ります」

俺が力を込めると何の抵抗もなく扉は開いていった。
ゆっくりと、いやなほどに落ち着いて。

朝比奈さんベッドの上で、布団を羽織り眠っていた。

ただ一つ気に掛かったのは。
彼女が寝ているベッド脇のカーテンが、風に吹かれて戦いでいたことだった。



329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:12:29.48 ID:SDS4EPFS0
何故、窓が開いている?
朝比奈さんが眠る前に開けたとは考えられない。
だが眠っている人間が窓を開けるなんて、そんな寝相の悪さ聴いた事もない。

「朝比奈、さん?」

俺は半ば恐怖を感じつつ、朝比奈さんに歩み寄って行った。

一歩。
一歩。

そう、まるで誘われるように。
この感覚は……。

さらにその予兆を確信へと変えるような、不自然な布団の盛り上がり。
仰向けに寝ている彼女の胸の辺りにまるで……

「朝比奈さん、大丈夫ですか?」

問い掛ける。
畜生、返事がない。

布団に手を掛ける。
掴む。
引き剥がした。

ああ、なんてことだ……。
まただ。また起こってしまった。

朝比奈さんの左胸に、深々と包丁が突き刺さっていた。



334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:24:48.71 ID:SDS4EPFS0
見よう見真似で脈を測った。
それをするまでもなく、じっとりと朱に染まったベッドからの状況だけで九割九分結果は解っていたが、
もしかすると無事なのかもしれない、という一縷の望みに掛けて採ったのだ。

「脈が無い」

歴然だった。
体も冷たいし息も無い。

朝比奈さんは死んでいた。

そして、包丁だ。
朝日を緩やかに反射しているこの凶器。
ここに”何か”がある。

俺はそれを確認すると――

包丁に触れた。



331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:17:13.75 ID:YcG8LMY/O
お、俺の嫁がぁぁぁああ!!


335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:36:29.70 ID:SDS4EPFS0
ザザッ。

ザァー……

白黒。
雑音。
変わり映えの無いこの前兆。

二度と視たくもないこの映像を、またもや視る羽目になるとは。
あんなに忌避していたのに。
犠牲者を出さぬよう、予防策は練っていたはずなのに。

俺が様々な負の感情に苛まれている間に、朧げな視野が開けてきた。

どこだ?
俺は何処に立っている?

暗い。
ただ只管に暗い。
だがカーテン越しの僅かな月明かりで、辺りが浮かび上げられている。

俺は見下ろしていた。
ベッドに眠る誰かを。

いや、朝比奈さんを。



338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 22:53:35.62 ID:SDS4EPFS0
どうやら朝比奈さんは、疲れによってぐっすりと眠っているようだ。
小さな物音や足音をたてた所で、目を覚ましたりという事態は有り得ない。
それほどに熟睡している。

俺は右手の凶器に力を込め、逆手で布団を剥いでいった。

掛け布団。
毛布。
タオルケット。

よほど寒がりなのだろうか。
やがて、ネグリジェ姿の朝比奈さんが露わになった。
無防備にも胸を上下させ、静かに呼吸を繰り返している。

この状態ならば手に掛けるのは容易いものだ。
そう確信した俺は、朝比奈さんの口元にそっと左手を添えた。
断末魔の叫喚をあげられると不味いからな、
こうやって刺すと同時に塞がなくちゃならないんだよ。

朝比奈さんの左胸側に狙いを定める。
肋骨の間を滑り込ませるように、中心側を狙わなくてはならない。
やるのは心臓だ。
そこへ届けば確実に仕留められる。

ゆっくりと息を吐き、朝比奈さんの胸の動きとタイミングを合わせる。
次に息を吐き切った瞬間に刺す。

1、2……3!

俺は左手で口を塞ぎ、同時に全体重を以って押し込んだ――



341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 23:05:35.69 ID:SDS4EPFS0
――きゃあああああああああああっ!!!

「ぐっ……!」

頭が痛い。
割れそうだ。
気持ちが悪い。
今にも倒れ込んでしまいそうだ。

俺はベッド脇に手を衝き、混濁して焦点が定まらない視界にじっと耐えた。

落ち着け……落ち着け…・…
焦った所でどうにもならないからな……

そういえばだ、世界が戻る時に叫び声が聴こえたような気がしたが……
あれは何だったんだ?

現実か?
それとも過去か?

くそっ、訳がわからん!
何故、朝比奈さんが死んでいるんだ!?
何故、閉められた筈の扉が開いている!?

こうまで万全な状況に置かれていながら、何故連続殺人が止められない!?

全てを崩したのはこの窓だ。
外に何かあるのか、それしか考えられない。

俺はようやく働いてきた思考を武器に、窓から外を覗き見た。



345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 23:24:41.58 ID:SDS4EPFS0
その先に奴が居た。
眼下に望む、朝比奈宅の塀の外。
更にその道路の向かい側。

直射の陽が注ぐなかで、壁に背を預け、じっとこちらを睨んでいる。

何の為に奴がここに居る。
目深に帽子をかぶったあいつが。

あいつは昨晩までは正体不明の追跡者だった。
だが、この日差しの中ではその正体を十二分に掴むことができる。

俺は声を張り上げた。

「お前はそこで何をしているんだ!?」

相手は微動だにしない。
そればかりか睨みを利かせた眼光のままで、訊ね返してきた。

「あんたこそ何をやってんのよ?
 それよりこっちは訊きたいことがあるの、あんたの超能力とやらは本物なの?」

何を惚けた事を言ってやがる。

「知るかそんなこと! 今こっちはそれどころじゃねぇんだよ!」

「どうしたのよ?」

「どうしたじゃないだろ! SOS団が俺とお前だけになっちまったんだよ、たった今な!」



348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/09(木) 23:38:11.52 ID:SDS4EPFS0
ハルヒの表情が一変した。

「それ、どういうこと!?」

「言葉通りだよ!」

俺の一言によってハルヒは押し黙った。

ハルヒのやつが狼狽えてやがる?
あいつは一体、何をしに来たんだ?

そのまま数瞬間、無言で睨み合ったのち、

「学校で待ってるから」

平坦に残してその場から走り去って行った。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 00:12:01.71 ID:kLJ/LJaD0
なんやかんやあった末に俺は夜の学校へと来ていた。

明日・明後日の文化祭へ向けての生徒達も、
この時間帯ともなれば散りゆく蜘蛛子のように帰路へ着いたようで、
SOS団室のある部室棟に至っては人気など皆無である。

俺は暗がりの廊下を抜け、軋む階段を上り、SOS団室までやってきたのだ。

息を整える。
数日ぶりに相対するからだ。

俺は、今までの習慣からノックをしてみた。

「入って」

短く声が返って来る。
しかしそれは以前のように朝比奈さんの嬌声ではなく、
今朝方、俺の元へと姿を現した団長のものだった。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 00:13:30.80 ID:kLJ/LJaD0
暗い部室棟とは対照的に、SOS団室内は明るかった。
テーブルの上にはビデオカメラと四角い箱が置かれている。

「暫くぶりね」

ああ、そうだな。
たった数日間だというのに今まで五月蠅かったぶん、久しぶりのように感じるぜ。
なあ、ハルヒ。

「単刀直入に訊くわ。犯人は、わかったの?」

部室奥の窓際に立ち、高圧的な態度で発せられたその言葉。
しかし怖じ気るわけにはいかない。
だから俺も強気に返した。

「確かめる為に此処へ来た」

「そう、ならいいわ」

短い一言のあと、ハルヒは苦々しい顔を覗かせていた。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 00:15:05.22 ID:kLJ/LJaD0
「残念ね、皆がこういうことになってしまうなんて」

その言葉とは裏腹に、ハルヒの強気な態度からは微塵も悲しさが感じられない。
どうしてそう気丈でいられるんだよ。

「本当に残念」

「ああ、まっこと残念だね。犯人に対して殺意が湧くくらいに」

夜の学校、それも人気のない部室棟だけあって互いが黙り込むと物音一つすらしなくなる。
嫌な空気だ、気不味いなんてものじゃない。
それにこのまま黙り込んでいても時間が過ぎていくばかりで何の意味も無い。

俺は痺れを切らし、口火を切った。

「何故だ、何故お前はあんな台本を作った?」

「どんな台本?」

「長門や古泉や朝比奈さんが殺されるというあの台本だよ。
 古泉に渡したのもお前だろう?」

「そうね、確かに台本を渡したわ」

「だったら何故なんだよ? 何故、あの通りに人が殺されていかなきゃならないんだ?」

ハルヒは頭を振ったあと、溜息交じりに呟いた。

「順序を追って説明していくから、よく聞いて頂戴」

俺もそれに無言で応じた。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 00:21:28.83 ID:kLJ/LJaD0
簡易メモ(日時)

1日目:長門有希が殺害される(18時30分〜19時)
2日目:キョン・古泉・朝比奈による探索で、長門発見
3日目:古泉が台本を借りに行き、その夜殺害される(22時前後)
4日目:古泉を発見、キョンと朝比奈はその後朝比奈宅へ
5日目:朝比奈が殺害される(未明)、キョンはこの後SOS団室へ



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/10/10(金) 00:23:02.81 ID:kLJ/LJaD0

「有希が亡くなった日から数えてのこの五日間、あたしが何をしていたのか知ってる?」

「存じてないね。俺が知り得ているのは三日前の朝に、お前が教室を出て行ったことくらいだ」

「三日前の朝、あたしはあんたから殺人事件のことを聞かされた。